「あ、れ?」

その一言から、彼らにとっての厄介な夜が始まった。





まず、最初に気付いたのは碧だった。
まぁ、彼が第一発見者になるのは必然と言えば必然。何故なら今回の事件の主役は一応彼で、その彼の持ち物が無くなったのだから。

「碧ー、どしたー?」

「いや……あのさ、俺の着物知らないか?」

なかなか着替えが終わらない親友に待ちくたびれて、迎えに来た澪はその言葉に驚きを隠せなかった。






「……碧さんの着物がなくなった、ねえ…」

現状を確認する様なさくらの呟きに、碧は静かに頷く。

「って言うか、何処の変態よソレ」

「碧さん、盗まれた時の状況ってわかりますか?」

続いた夏の言葉に苦笑いを浮かべ、陸の言葉に必死に記憶を辿る。

「……俺、今日仕事だったから、こっちで着替えようと思って服もって来て、で、着替えてる途中に環さんに呼ばれて……三分くらいかな?ここを離れたら、その間にやられてた」

盗まれたのは、舞傘のチームユニフォームである着物。とは言ってもそれ自体はほぼ腰に巻いているだけなので、無くなっても大して害ははないのだが、問題は碧自身にあった。

「……とりあえず見つかるまで俺の使うか?お前そのままは流石に露出度高いだろ」

ノースリーブにショートパンツのロングブーツ。確かに、露出度はそこそこ高い。
正直な所、男である碧には関係のない事なのだが、あまり男らしい体つきをしていない事から問題が生じる事を危惧したであろう澪の申し出。

「いいよいいよ、別にこっちのが動きやすいし。それに、戦始まるまでまだ30分はあるだろ?そのうちに見つかるって」

それをやんわりと断った碧に、全員が呆れ果てたのは言うまでもない。
碧以外のメンバーは、澪が申し出たもう一つの理由に気が付いていたからだ。

白い肌に浮かぶ無数の傷痕。おそらく、一生消えないであろう痣。
幸い、目立つ所にはないのだが、技の最中にそれらが見えないとも限らない。
変な噂などたてられないようにとの配慮だったのだが、それは儚くも一瞬で無駄に終わった。

「まぁ、碧くんのいう通りですね。私も昔よく服を盗まれたりしましたけど、探したらすぐに見つかりましたし」

自分の不注意で落としたり、確認不足という可能性もありますからね。

それはきっと、碧を励ます為に紡がれた言葉だったのだろう。酒巻環はそういう人間だ。優しく、気が利き、頼りになる。
だが、例え声に出すことは不可能でも、陸を始め、澪、夏、さくらはツッコミを入れずにはいられなかった。

『貴方の場合は身内に犯人がいたからすぐに見つかったんですよ』

と……。



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