企画

□みつめるさきに
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意識が戻り、ぐらぐらと揺れる視界がようやく定まってきた頃。
目の前には白い子供がいた。
それが自分の知る彼であることに気づいた瞬間、目を見張った。


「………起きた?」


ああ、と言ったつもりが、驚きで声が出ていなかったらしい。

「おーい……聞いてる?」

「ぁ……あぁ。」


白色は視線を下に向けると、一瞬顔をしかめた。
何かと思って見てみれば、先ほどあの男につくられた刀傷があった。
痛みというのは不思議なもので、その存在を認識すると傷口は痛み始める。
自分も例外ではないようで、途端にそこがグズグスと痛み始める。
自分はやはり油断していたかと反省していると、銀時であろう白色は痛々しいそこをジッと見つめた。
子供には少々刺激が強いだろうに。


「…あまりジロジロと見るものではないぞ。」

「……大丈夫」


それだけ言うと、銀時は着物の懐からてぬぐいを取り出した。
ちよっと待ってて、と告げ、走り去る後ろ姿を呆然と見送った。

なんだかその後ろ姿は、自分も幼かった時に見たものよりも小さく見えたのは、気のせいだろうか。

















「………足出して」

「いや、自分でやろう。そこまで迷惑をかける訳にはいかん。」

「…いいから」


先程からずっとこのやりとりを続けている。
もう何分経ったかわからないが、銀時が頑固なのはこの頃からずっとか。
なんて気を抜いた瞬間だ。


「………!貴様……」


激痛が走ったかと思ったら銀時が足首を握っていた。
しかも傷口に力を入れているものだからタチが悪い。
そこまでして自分がやりたいか。


「…わかった、やってくれ。」


ため息をつきながらそう言えば、テキパキと処置をこなしていく。
水を適当にかけられた時には思わずそんなんでいいのかと言いかけたが、すぐに次の作業に移ってしまったため諦めた。
しかし一体今はいつなのだろうか。
ここが過去だということはなんとなくだがわかった。
だが、銀時とほとんど一緒にいたはずの自分や高杉は見当たらない。
なら、ここは、


「終わった」


急に聞こえた声によって、もう少しで答えにたどり着くはずだったものが遮られた。
足首を見てみれば、思っていたよりもうまく包帯が巻いてあった。


「あぁ、助かった」


ありがとうと言おうと思い銀時を見れば、そっぽを向いていた。
何かあるのかと同じ方向を見てみると、遠くに懐かしい姿があった。
松陽先生。
自分が発したはずの言葉は小さすぎて聞き取れなかった。
あの人が、そこにいる。
今すぐに走り出してしまいたかった。
けれど、近くにいた銀色はじっとそこを見つめたまま動こうとしなかった。


「………行かないのか?」

「…いい」

「……そうか」


それ以上は話してくれそうもない銀時の目はまっすぐに松陽先生を見ている。
松陽先生は、記憶の中の先生と寸分違わずそこにいた。
あの暖かな笑みも、なにもかも同じだった。
塾生達に向ける笑顔は、まるで太陽とようだと思った。
その笑顔を向けられたのは、一体いつが最後だっただろうか。

まわりで楽しそうに駆け回る子供たちを見て、ようやく合点がいった。
銀時があそこへ行こうとしない理由。


「………行ってみればいいじゃないか」


そう言った瞬間に睨まれた。


「………行かない」


行かないんじゃなく、行けないのだ、この子は。
自分の色が異端であることを知っているから。
だが。


「俺はお前と会った時、お前に寄るな触るなと言ったか?」

「…言ってない、けど」

「あそこにいるのも、そういう奴等だ」

はっと顔をあげた銀時の頭に手をのせると、泣きそうなような、不思議だと思っているような、複雑な顔をした。
そんなこと、と小さく漏らした銀時は不安そうに俺と先生達を交互に見た。


「大丈夫だ。お前の髪はおかしくなどないさ」


だから、行ってこい。

笑って髪をくしゃくしゃと撫でると、ぽろぽろと涙をこぼした。
それを手でそれを乱暴に拭って立ち上がり、一度こちらを見て、何も言わず走っていった。


「不器用だな、あいつは」


苦笑しながらその背中を見送った。
その時、先生がこちらを向いて、笑ったような気がした。










 
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