短篇
□彼らの日常
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一方その頃。
「ちくしょう土方め…銀さんの仕事手伝うだなんて羨ましい仕事貰いやがって…」
「それは同感だけど…こうして傍にいられるのでも十分じゃない」
「…陽香は一緒に仕事なんてしたらオーバーヒートして使い物にならなさそうだもんね」
「……否定はできないなぁ」
「俺だったら仕事頑張るのになぁ…なんで俺は駄目で土方糞野郎はいいのさ…」
「拓人は書類仕事いつも部下に押し付けてるからね…」
「それが原因か…!」
くそう、と頭を抱え込む拓人を横目でちらりと見て苦笑する。
隊長の仕事を手伝いたい白羅隊士なんて、私達以外にもいるでしょうに、隊長はあの新入りにしか仕事を分けない。
わざわざ嫌がる相手を選ばなくてもいいのに。
「交代制でお手伝いできたらいいのになぁ…」
「こないだ『お前には仕事があるだろ?』って断られちゃったしなぁ」
「そもそも…拓人は白羅じゃないでしょう」
「俺はヅラより銀さんの役に立ちたいの」
副隊長がこんなで、風陣の人達はどうなんだろうと、少し桂さんが不憫に思える。
それでも、やるときはやるのだからこの子はよく分からない。
ふぅん、と返した所で会話が途切れる。
別に無言は苦しくもなんともない。
ただ、静かになると部屋から声が漏れ聞こえる。
内容はくだらない物だけれど、片方が隊長だから羨ましい。
そんな話をしながら一緒に仕事できたら幸せなんだろうなぁと思う。
「いいなぁ…下っ端の癖に」
「陽香さーん、素が漏れ出てますよー」
「ずっと黒いのが垂れ流しな拓人君よりはマシですよー」
「それが俺のアイデンティティーだもーん」
にこりと笑う顔の下には更に黒いものが隠されてるんだろう。
この子が真っ白なのは隊長の前だけだ。
かくいう私も似たようなものなのだろうけれど。
私の黒い所はきっとこの子とは違うんだろう。
多分一生それは黒いままだし、白くなることも望んではいない。
ただ、黒いようで白いあの男が、白羅に選ばれたのは、それが理由なのかと思うと、自分の黒が恨めしい。
いいなぁ、と、羨むくらい、許して欲しいな。
オイテメェいい加減真面目にやれ!
苺牛乳飲んだらやる気出る気がする!
ふざけんな!
堪忍袋の尾が切れたのか騒ぎ始めた室内。
拓人と顔を見合わせ、その場から彼が立ち去る。
今回隊長は結構粘った方だ。
いつもは開始十分で糖分不足に陥るのに。
ああもううるせぇな!なんでもいいからやれ!
いーやーだーねー、俺は糖分無いと死んじゃうから、つー訳で取ってくる!
オイ待て逃げるつもりだろうが!
す、と開いた障子の向こうには隊長が。
「ちょっと俺苺牛乳買ってくるから、土方君の事見張っておいて」
「その必要は無いですよー」
一歩踏み出そうとした瞬間、間延びした声が後ろから聞こえる。
ニコニコと笑う拓人を見て、隊長は残念そうに肩を落とした。
「ちゃんと雫弥が買っておいてくれましたよー、相変わらずお見通しです」
「……本当に敵わねぇよ」
「勝とうと思ったら赤司さんに策でも授かった方がいいんじゃないですか?隊長」
「…だな」
「あ、ストローつけときました」
「さんきゅ」
ピンク色のそれを受け取り苦笑した隊長は、逃げるのを諦めたらしい。
す、と閉められた障子に肩を落とす。
もう少し話したかったなぁ。
「陽香さーん、残念オーラが駄々漏れですよー」
「そうだねー…」
「あらら…本格的に駄目だねこりゃ」
苦笑いを浮かべる拓人に反応を返す気は無い。
それが通じたのか、拓人は一つため息をこぼすと、懐からひらりと三枚の紙を取り出した。
「しょーがない、そんな陽香さんにこれを一枚あげようじゃないですか」
「何?」
「絶対に隊長を落とせる魔法のチケットでーす、まぁ俺も行くけど」
甘味食べ放題、とデカデカと書かれたそれは、確かに隊長を釣るには一番だろう。
「銀さんのお仕事終わったら行こーよ」
「…そうだね」
たまにはいいじゃない、こんなのも。
彼らの日常
(うわ、ちょやべぇ俺の苺牛乳が!)
(お前は何してんだァァァァ!!)
((……終わるのかこれ))
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