企画

□白鬼は嗤う〜第一章〜
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所変わって真選組屯所。
いつもより張り詰めた空気が漂う中、会議室は緊張した面持ちの隊士達で溢れかえっていた。


「いいかお前ら、明日の祭りには将軍様がいらっしゃる!俺達は将軍様を全力でお守りするぞ!」

「いつもの警備と同じだとは思うなよ。今回はいつにも増して気を引き締めろ」


紫煙を吐き出しながらそう言った土方の目はいつも以上に剣呑な目付きで、隊士達はそれに思わず唾を飲み込んだ。
隊士達も今回の祭りがいつもと違うということは、薄々勘付いていたらしい。


「今江戸で小規模なクーデタが度々起こっているのは知ってるな。あれは恐らく鬼兵隊が関係しているものだと思われる」


鬼兵隊という名が出ると、俄に部屋がざわついた。
鬼兵隊。
攘夷戦争後期に活躍したとされる義勇軍であり、その戦力は相当のものであったらしい。
だが、攘夷戦争終結後、彼らは弾圧され、大量粛正の憂き目に合い壊滅状態に。
彼らを率いていた男は姿を消し、事実上鬼兵隊は消滅した。
…とされている。


「ここまではテメェらが知っている通りだ。だが、この間捕えた攘夷浪士の一人が吐いた情報によれば、どうやら鬼兵隊は再結成したらしい」

「え、そうなの!?」

「……近藤さん、資料読んでねぇだろ」


手元の資料に目を向けると、近藤はあたふたと慌て始めた。


「いやいやいや読んだって!」

「それじゃ無ぇから…机の上置いといただろ」

「あ……あーあれね、読んだ読んだ!」

「……読んだ近藤さんが再度確認する為にももう一度現状を説明するぞ」

すかさずフォロー力を発揮した土方。
流石フォロ方十四フォローである。
ゴホンと一度咳払いをして空気を変えると、土方はもう一度資料へ目を向けた。


「そいつの証言によると、現在の鬼兵隊を率いてるのは以前の奴とは別人らしい」

「確か以前の奴の記録はほとんど抹消されてるんだったな…」

「ああ。幕府が散々手こずらされた奴だからな…そいつごと鬼兵隊を潰そうとしたらしいが、どうやらうまくいかずに情報だけ潰しちまったようだ」


その資料があれば幾分か現在の捜査も楽になっただろうが、過ぎてしまったことは仕方ない。
幕府のお偉方の仕事に期待することは無駄だというのは今までの対応からして明らかだ。


「まぁそれは今回問題じゃ無ぇ。今一番まずいのは、新たに鬼兵隊を立ち上げた奴の方だ…全員、『白夜叉』という名は聞いたことぐらいあるだろう」


ざわり。
鬼兵隊の名前が出た時以上に場の空気が揺らいだ。
隣に座る近藤も明らかに動揺している。
だから資料に目を通しておけと言ったんだ、と頭を抱えたくなった土方だったが、自身も初めてそれを聞いた時はかなり動揺した。


「白夜叉ってのは攘夷浪士が作り上げた伝説みたいなもんじゃないのか…?」

「俺もそう思ってたんだがな…どうやら違ったらしい」


白夜叉。
銀色の髪に血を浴び、戦場を駆る姿は、まさしく────夜叉。

そう謳われる男が、実在する。
それが敵方にいるというのは、非常に厄介だと言わざるをえないだろう。
現にその情報は攘夷浪士どもの間で飛び交い、白夜叉再臨に浮き足立った者達がクーデタを起こした。
それが今回の小規模クーデタがいくつも起こった原因だ。


「白夜叉が厄介なのはその存在が偶像化されている所だ…顔も名前も不明、世間に知れ渡っているのはその二つ名と、夜叉と称される程の実力だけ。色々と噂されちゃいるが、どれもこれも信憑性に欠ける」

「そいつが本当に鬼兵隊をもう一度作り上げたってのか?それだけの名声がありゃわざわざ人様の作った名前を勝手に使わずとも人は集まるだろう?」

「ああ、俺もそう思ってな。攘夷戦争に参加して、実際白夜叉を知っている奴を探した。幸い死刑囚の中に一人だけ見つかってな…どうやら、白夜叉は攘夷戦争時、鬼兵隊に在籍していたらしい」

「白夜叉が…?」

「攘夷戦争終結後、クーデタを起こしてとっ捕まった大物の証言だ。恐らく事実だろうよ」


随分短くなってしまった煙草を灰皿に押し付け火をもみ消すと、白い煙が細く昇った。
消えたと思っていたものが再び表舞台に現れたことに対する反響は想像以上に大きい。
それを知ってか知らずか、その男は世間を嘲笑うかのように動く。


「鬼兵隊は恐らく明日の祭りに目を付けている。京に送ってる監察から、ここ数日京での攘夷浪士の動きがほとんど無いと報告が来ていることから、ほぼ間違い無いだろう」

「奴の目的は、将軍様か」

「十中八九それだろう。将軍が城下に訪れる数少ない機会だ…奴等が見逃すとは思えねぇ」

「そうか…だが、俺達のやることは変わらん。お前等!俺達は全力で将軍様をお守りするぞ!」


近藤の呼びかけに応と答えた隊士達。
彼らを見渡すと、会議前に見て取れた緊張はほとんど消えていた。
それを感じ取った土方は肩の力を抜くこと無く続ける。


「将軍に最も近い場所の警護は一番隊に任せる。…総悟!」


………。
シーンと静まり返った部屋にまさかと山崎に目を向ける。


「沖田隊長なら最初からいませんでしたよ」


「………総悟ォォォォォォォォォ!!」








  
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