捧げ物

□騙し騙され
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「じゃあ早速質問いきまさぁ」

「五問までな」

「…一応事情聴取なんですけどねィ」

「何の罪も無い一般人なんだから一個ぐらい条件付けてもいいでしょーが」

「…まあ今回それで勘弁しやす」

「そりゃどーも」

心底面倒臭そうに答える旦那。
だがこっちも仕事─半分以上は私利私欲の為だが─なので、気に留めることなく取りかかる。
条件を付けられてしまった以上、質問は慎重にせねばなるまい。
五問というのは多いようで少ない。
なんにせよ、とりあえず仕事を先に済ませてしまおうか。
でなければあのニコチンクソ上司に何を言われるか分かったもんじゃない。

「んじゃ一つ目いきやすぜー」

「おう」

「3日前の正午、旦那はその時何処で何してましたか」

「長谷川さんとパチンコしてた」

「相変わらずマダオですねィ」

「うるせーよ。なにこれいじめ?事情聴取の名を借りたいじめ?」

「いやいや立派な事情聴取でさぁ」

肩を竦めてみせればじとりと睨めつけられる。
やれやれ信用はしてもらえないらしい。
まぁこんな場所じゃ仕方ないだろう。
これを言うのも二度目な気もするが。
とりあえず、事件のあった時点で誰かと共にいたならばアリバイは確定。
まあ端からそれは疑ってはいなかったのだが。
そもそも今回の事件は白夜叉の関与が疑われるというよりは、これにより白夜叉が攘夷志士側に着くことを狙ったものと言っていいだろう。
まぁ、一応形式として聞いたまでなのだが。
これで残り四つ。
個人的には勿体ない使い方をしたと嘆きたいところだが、仕事な以上仕方がない。
さて次は、と手元の書類を捲る。
事件の概要、日時、首謀者、エトセトラエトセトラ。
ぺらぺらと捲っていると間の抜けた腹の音が。

「…そんなに腹減ったんですかぃ?」

「そりゃあもう」

「あと一時間もかからないんで我慢して貰えると嬉しいんですけどね」

「…昼飯が待ち遠しい」

「昼飯買える金あるんですかぃ?」

「馬鹿にしてんの?…昼飯は卵かけご飯オンリーですが何か」

「………」

「黙らないで!何か言って頼むから!ねぇちょっと!」

「ひもじいなぁとか思ってないですから心配なく」

「それ確実に思ってんじゃん……まあいいか、これで二つな」

「そりゃ無ぇですぜ旦那ぁ」

「質問は質問ですからー早く三つ目聞けよ、聞かないなら銀さんの好みのタイプで五個目まで終わらせるぞ」

残念ながら旦那の女性の好みには興味が無いので遠慮させて頂くとする。
しかしやられた。
ただでさえ少なかった質問機会をこれでまた一つ失ってしまい。
どうにも旦那は早く帰りたくて仕方ないらしい。
それならば、こっちも抑えずにいこうじゃないか。

ぺらり、ともう一枚手元の書類を捲ったところで目当ての物を見つけた。

「旦那ぁ」

「なんだい沖田君」

「実はこの間ターミナルが爆破されかけましてね」

「ふーん」

「実はその実行犯の裏には鬼兵隊…高杉晋助がいたんじゃないかってことになってまして」

「…で?」

「高杉についてなんか知りやせんか」

「…そこに落ち着くのね」

「で?どうなんですかい」

「俺はクソチビヤクルト大好きな中二病テロリストのことなんて知らねーよ」

あの外見でヤクルト好きなのか。
今日一番の衝撃かもしれない。
どう考えてもミスマッチでしかないだろう。
だが今大事なのはそこじゃない。
大事かもしれないが、今はそこじゃないのだ。
頭の片隅でヤクルト片手に笑う高杉が出てきたが頭を振ることでその残像を消し去る。
これは今晩は嫌な夢見そうだ。

「随分知ってるじゃ無いですか」

「全部wi◯iに載ってるからな」

「初耳でさぁ」

「普通あいつの事なんざ誰も調べねーから知らない奴の方が多いだろ」

「じゃあなんで旦那は知ってるんで?」

「昔馴染みが見せてきた」

ほー、と適当に返事を返しながらも内心舌打ちする。
つかみ所を見せるようで見せない。
今だってとっかかりはあるにも関わらず奥深くまでは除かせない。
これはなんとも口を割らせるのは難しいかもしれない。
こういう時に一番聞き出し難いのは何も喋らない奴、と相場は決まっているが、旦那に限っては違うようだ。
一つ糸を掴んだと思えばその先はぷつりと切れている。
何本もの糸をた垂らしても、その先に繋がっていたものを知ることは叶わない。
そんな相手はこれが始めてだ。

「ま、旦那はそのヤクルト野郎を知らないってことにしときまさぁ」

「しとくも何も知らないしー」

「へいへい」

まあ、今回の本題はそこじゃない。
高杉の関与も疑われる程度だし、そんなにすぐ吐いてくれるような関係ではないことは桂との関係からも明らかだ。
何か俺達にはわからない縁を持っていることは分かっても、その縁を何と呼ぶのかまでは分からない。
旦那ならば全てまとめて、腐れ縁と呼んでしまうのかもしれないけれど。

「沖田君あと二つだぞーちゃきちゃきやってくれや」

「分かってますよ。んじゃ次いきやすぜー」

目線を書類に落とし、事件関係者の欄を眺めた。
数十名の名前が書き連ねられたその中からいくつかの名前を抜きだし、別途の書類の束から写真を抜き出した。
それを机上に並べ、旦那の方へと向ける。

「こいつらは3日前のターミナル爆破未遂の実行犯でしてねえ、只今裁判待ちの奴等なんですが」

「俺に何の関係があんのそれ」

「まぁまぁ、人の話は最後まで聞くもんですぜ」

ちっちっ、と指を振ると旦那の眉がぴくりと動いた。
どうやら割と我慢の限界が近づいているらしい。
そろそろ潮時のようだし、一気に畳み掛ける。

「こいつらに見覚えはありますかい?」

「銀さん野郎の顔覚えんの苦手だからなさっぱり」

「そうですかい…じゃあ、大方ただの熱狂的白夜叉信者ってとこか」

「こんなむさ苦しいファンなんざいらねぇよ」

顔を顰めつつ写真から目を背けたその表情には、言葉どおりの感情しか読み取れない。
どうやら本当に何の関与も無いようで。
存外つまらぬ結果になったものだと落胆しつつも、憂さ晴らしに鎌をかけてみる。

「こいつらも哀れなもんでさぁ、自分達が心酔してるから、行動を起こせば必ず見てくれるーなんて。旦那はそんな簡単には動かないでしょうに」

「そーだね」

「ま、旦那動かすんならこいつら程度の奴の首をあと二三十、ってとこですかねぃ」

ちら、と視線を送るも、思ったような反応は何もない。
冷めている、というよりは興味も無いと言ったところか。
やはり簡単には見せてくれないらしい。
ならば最後の切り札を、と書類を机に投げ捨て席を立った。




 
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