企画

□白鬼は嗤う〜第二章〜
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船に忍び込んでいた少女を捕獲してからはや一刻。
未だに目覚める気配は無い。
来島の銃弾を受けたのだから当然と言えば当然かもしれないが。
しかしその傷口は既に修復し始めている。恐ろしい回復力だ。
人間にはあり得ないその速度、甲板で見せたあの力強さ、そして常人とは比べようも無い程に白い肌。
もし日に当たらないと言っても黄色人種の肌の色には限度という物がある。だがこの少女のそれはその範疇には無い。
言っておくがロリコンだから舐め回すように少女を見てるとかでは無い、決して。
あくまでも私はフェミニストである、ただの子供好きの。
それを言うと毎回のように来島に白い目で見られるが。
誰がなんと言おうとロリコンでは無いったら無い。断じて。


「何考えてんだそこのロリコン」

「ロリコンじゃあないフェミニストです。……おや、あなたでしたか坂田さん、黒子野殿はよろしいのですか?」

「急な来客があったもんで対応して貰ってる」

「左様ですか。して何故此処に?」

「色々用事があってな」

ひょい、と後ろを振り向いた坂田さんの視線の先には数人の隊士が盆を抱えてるのが見えた。
ほかほかと湯気をたてる汁物が、暫く腹に何もいれてなかった身にはとても魅力的に映る。
セットのおにぎりと香の物もきっと彼が手ずから作ったのだろう。
どうせ食べてないだろ、と笑う坂田さんに礼を言って一つ手にとった。
手がベタつかないように海苔が巻かれてるあたり面倒臭がりの彼には珍しい。
お手拭きまで用意されてるのを見ると、それなりに大事な用事があるらしい。

「その後嬢ちゃんはどうよ」

「流石にまだ目を覚ましませんが、傷口はもう塞がったようです。恐らくは天人なのでしょう、しかも厄介なことに戦闘部族のようで」

「夜兎だろうな」

「ええ、特徴が全て一致しています。一体何が目的で忍び込んだのやら…」

どこかの敵対勢力から鉄砲玉として送り込まれたのか、それとも此処にある物に勘付いたのか。
何にせよアレを見られた以上帰せまい。

「ま、そこら辺はお前らに任せるわ。…そういやまた子ちゃんは?」

「ああ、彼女なら似蔵さんに喉をやられてしまい療養中です。そこまで酷い訳では無いようですが」

「ふーん…アイツもオイタが過ぎるねえ」

一瞬、背筋を氷が滑り落ちるような寒気がした。
それが目の前の男から発せられたものだと思うと末恐ろしい。
なんだかんだでこの人も女性には甘い。
女性といっても身内の者だけにだが。
彼は一度気を許した者には滅法甘い。だが彼の世界から一歩外に出れば彼の視界にはもう映らない。
彼の世界は両極端だ。
だが似蔵はまだその境界線上にいる。
内側か、外側か。

桂の遺髪と思しき髪の束を持ち帰った似蔵はそれを自慢気に晒した。
それを見た坂田さんの反応は似蔵が思っていたよりも薄かったらしく、僅かばかり不満だったらしい。
そして今度は高杉にまで手を出した。
不満の燻る彼に火をつけてしまったのが来島だった。









「なんでアンタそんなに銀時様を刺激するような奴ばっか手ェ出すんスか…アンタ強くなったつもりっスか?勘違いするなよ、アンタの力は全部紅桜のおかげ…ぐぁッ…!」

「また子さん!」

紅桜からシュルシュルと伸びたコードが一挙に来島の喉に絡みついた。
じわりじわりと締め付けられるそれに来島の顔が青ざめてくる。
やりすぎだ、と似蔵の視線をやると彼は白い目を向いて笑っていた。
異様なその状態に言葉を無くすと、更に酷薄に笑んでみせた。

「邪魔なんだよあいつら…あいつらがいると、あの人は夜叉(おに)でなくなるんだよ…ただの弱い人間だ。鬼兵隊に必要なのは夜叉のあの人だろう?俺達はあの鬼に着いていく為に此処にいるんじゃないのかい。凄絶なまでの力を持つ夜叉がこの世界を壊したいと望むなら俺達はそれを叶えて然るべきだろう。違うかい?それを邪魔する過去のしがらみを取り払ってなにが悪い?」

ひひ、と楽しげに笑う彼に感じたのは自分達と彼との間にある溝だった。
坂田銀時という人物に見るものが、彼と自分達とでは違うのだ。
悲鳴も出せぬ状態の来島でさえも、それは感じ取ったようだった。
息のできぬまま、隠すこともない侮蔑の表情を似蔵に向けて。
それに気づいているのかいないのか。
似蔵は語り続ける。

「邪魔なんだよ…いつまでも過去の栄光が出しゃばるもんじゃない。新しい時代をつくるのはあの人だ。その時あの人の隣に有るのは奴等じゃない…俺達なんだよ!」

する、と一本づつ離れていく触手のようなコード。
受身を取る力も残っていないようで、来島が意識を失うように地面に崩れ落ちる。
慌てて駆け寄り息を確認すると、荒かった息が徐々に落ち着いていく。
そんなことには興味も無いのか、紅桜を一振りすると彼は背を向けて部屋を後にしようと襖を開けてからちらりとこちらを見やった。

「邪魔はしないでくれよ?でないとアンタ達まで斬っちまいそうだからね」

そう言って笑う彼は最早、仲間と呼べる存在では無いのかもしれない。








「…似蔵の奴はまぁ俺がなんとかするとしてだ、俺はお前に用事があってだな」

「私にですか?」

「そ。大事な大事な用事」

「それは…客人を放ってまでする話なんですね」

「…まぁな」

未だ何処かの部屋にいるであろう長年の同志を差し置いてまで此処に彼が来たということは、それなりの心積もりで居た方が良いだろう。彼に期待されるならば、それ以上の物を返すのが私なりの彼への礼儀だ。
それが私にできることならば。
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