企画

□白鬼は嗤う〜第二章〜
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海風が吹き付ける港近く。
寂れた長屋の物陰に潜む男女が一組いた。
男…高杉が建物の隙間から眺める先には腰に刀を差した浪人達が慌ただしく動いている。
「よくもまあこんなにもうじゃうじゃと…何かあるって言ってるようなもんじゃねェか」
「兄者が通っていた場所はここで間違いない。鬼兵隊の船はそこに停泊してるはずだったが…遅かったみたいだ」

空を見上げた鉄子の視線の先には既に銃撃戦を始めた船がいくつか。
撃ち落とされた船が海に落ちていくのを眺めながら鉄子は唇を噛みしめた。
どうする、と高杉に視線で問う鉄子に、高杉は無言で返した。
どうしたものかともう一度通りに目を向けた時、何やら見覚えのある白くて丸いフォルムが視界の端をよぎった。

「……あ?」
「どうした」
「…移動するぞ」

まさかとは思ったが、念のため二度見したらやはりそれはいた。
なんでこんな所にと思わないでも無かったが、桂がいない今、奴らが辿り着いた予想も同じものだったのだろう。
エリザベスを取り囲むように群がっている浪士達は桂一派の者達だろう、エリザベス程知っている顔、という訳では無いが以前何度か桂と共にいるところを見かけた者が多い。
何やら話し込んでいる様子だった為、声が聞こえる位置にまで移動し聞き耳を立てる。

「船の用意が……」

「桂さん……もう……」

「エリ………まさか!」

「こうしちゃいられねえ!」

「エリザベスさんの勘はよく当たるんだ!」

最後にそう叫んだのだけはハッキリと聞き取れた。
船へと走るエリザベスと男達を二人でバレぬように追いかける。
行先は同じなのだ、同乗したところでなんの問題もあるまい。
無賃乗車にはなるが、ついでに奴等のリーダーでも見つけて帰ればそれで十分な代金になるだろう。
恐らく上空のあの船に乗り込んでいるであろう従業員二人も忘れずに回収しなければなるまい。
あの二人に限って簡単にくたばることは無いだろうが、相手は鬼兵隊だ。
その強さは自分が…自分と銀時が良く知っている。
自分達が率いる鬼兵隊こそ最強だと、あの頃は疑うことすらしなかった。
今の鬼兵隊にいるのはあの頃の隊員ではないが、白夜叉がまた作り上げたモノだ。
坂田銀時が鬼兵隊を名乗るなら、今の鬼兵隊もまた銀時にとっては手足となり得るのだろう。
背を預けるとまではいかずとも、その名を背負うことを認める位には使える奴が揃っていると考えてまず間違いない。
いざという時にはこいつを抜く。
腰に差したものの重みを感じながら、走り抜けた。





















船内の薄暗い部屋に、ミシミシと肉が悲鳴を上げる音が響く。
それに伴う痛みが全身を駆け巡り思わず呻いた。
荒い息を整えるために壁に背を預けて呼吸をするも、息が落ち着く前に次の苦痛がやってくる。

「よぉ、元気…ではなさそうだな」

はは、と笑う声に顔を上げるとそこには白い男。
こちらが苦痛に呻く中優雅に紫煙を燻らせる銀時に、労りを見せる気配は無い。

「俺が止めないからってまー色々やってくれちゃったみたいだな。ヅラを斬って?その上あのチビにまで喧嘩売ったとか?楽しかったかよ」

「ははっ…どうだかね…そういうアンタはどうなんだい」

自分に返ってきた質問に小首を傾げる銀時に、にやりと笑って言葉を続けた。

「アンタの昔の同志が簡単にやられちまって、哀しんでいるのか、それとも…」

瞬間、自分の意志で動く前に右腕が蠢き刃を形成する。
ガキン、と音をたてた刃の先には受け止めた刀。
重い重い一撃を無意識の内に遮ったことに口笛を鳴らした銀時が刀をおさめる。

「随分いい腕生えたじゃねーか。まあ、勝手に持ち出した落とし前つけるにはそれ位役に立つモンになってた方がいいし、良かったなあ似蔵君よお」

「勝手に」を強調したものの未だ楽しげな銀時に、知らず知らずのうちに冷や汗が額をつたう。
今まで何の処罰も無かったのが余計に恐ろしさを感じさせる。

「いい加減落とし前つけてもらおうと思ってたから丁度いいわ。外のうるせぇ連中黙らせて来いよ、その腕で」

返事は聞くつもりが無いらしく、離れていく気配に右腕が戦闘状態を解く。
遠ざかる足音に息をついたが、数歩進んで止まった足が最後に一瞥こちらにくれる。
鈍い痛みに顔を顰めたものの、向けられた冷たい殺気に息も痛みも一瞬にして止まる。


「ああ、言い忘れてたけど、二度と俺達を同志なんて呼び方すんじゃねぇ」

そんな甘っちょろいモンじゃねーよ、俺達は。

それだけ言うと去っていった銀時に、止まった呼吸も痛みも再び動き始めた。
あんなにも感情の籠らない声を聴いたのは初めてだった。
(…今のは本気で斬るつもりだったね)
そして自分が既に彼に見放された存在になっていたことを悟った。
どう足掻いてももう彼の中で似蔵の存在が大きくなることはきっと無い。
そんな地雷を踏んだらしい。
どうせ見放されるならば、彼の輝きを曇らせるモノを排除しなければ。
自分が隣に立たずとも、奴等さえいなければ彼の輝きは続くのだ。
どうせ消えるなら、彼の炎に飲まれ消えよう。
この身が彼の炎を更に燃え上がらせる糧になるというのなら、そこに躊躇いなどありはしない。
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