企画

□白鬼は嗤う〜第二章〜
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日も落ちて暗くなった路地裏に二人はいた。そもそも二人と形容するのも合っているのかわからないが。買ってきたばかりの焼きそばパンを持ったまま朝のことを思い出す。
なんやんやでエリザベスから桂さんが辻斬りに襲われたことを聞き出し、今現在神楽ちゃん定春、僕とエリザベスで分かれ辻斬りを追っている。依頼を受けたからと嘯いて出て行った高杉さんから連絡はない。もしかしたら本当に依頼だったのだろうか。上の空になりながら白い背中に近づく。

「今日も現れますかね、辻斬りのやつ…うおあっ!?」

眼前に迫った刃をなんとか避ける。
ギリギリで避けたそれは深々と壁に突き刺さっていた。

「なにするんですか!」
『俺の後ろに立つな』
「うるさいよどっちが前だか後ろだか分からん体してる癖に!」
「おい」

ぎゃいぎゃいと騒いでいると第三者の声がして息が止まった。まさか辻斬りか。恐る恐る視線を上にあげると、そこにいたのは奉行所の役人らしき人。

「なんだ…」

詰めていた息を吐き出し、胸を撫で下ろした。
なにか喚くその人の声をBGMに、やはり辻斬りは現れないのだろうかと考えた。

「最近ここらにはなあ……」

ぷつりと不自然に途切れた声。どうしたのかと意識を向けて、絶句した。飛び散る赤、赤、赤。生温かいそれが頬にかかる。

「辻斬りが出るから危ないよ」

赤の向こう側にいた男は、見覚えのある顔で。だがそれは、あまり良い思い出とは言えない物。役人を切り捨て、次は僕だと言わんばかりに刀を振り上げた男──岡田似蔵。
その男の通り名を思いだし、後ずさったが、その刃は確実に僕を捉えるだろう。ダメか、と諦めて目を瞑りかけたその時、見慣れた姿が視界に飛び込んだ。

「おいおい…妖刀探して来てみりゃ、どっかで見たツラじゃねェか」
「高杉さん!」
「…ほんとだねェ、どっかで嗅いだ匂いだ」

ポリバケツから出てきた高杉さんは木刀を腰からすらりと抜き似蔵と対峙した。何故こんなところにこの人が。それに妖刀とは一体、


「妖刀の持ち主がお前とは、また面倒そうだなァ…」
「クク、俺はアンタに会えて良かったけどねえ、探す手間が省けたしねえ」
「そりゃこっちも同じだ」
「この刀は災いを呼ぶと聞いていたが、桂にアンタ、強者を呼び寄せるモンでもあるらしい」
「桂さん…?まさか」

おもむろに懐から取り出した、切りとられた髪の束。それは今の言葉から察するに桂さんの物。そう気づいた時にはもう高杉さんは僕の前にはいなかった。がきんと大きく響いた金属音。街中で始まった斬り合いは前回のものよりも格段に激しく荒々しい。
まるで削りあうかのような鍔迫り合いを何度も繰り返す内に、若干だが高杉さんが押され始める。そして少しずつ、その戦いに違和感を覚えはじめた時、似蔵の刀は突如として形を変えた。

「なっ…!?」
「高杉さん!」

今までとは比べ物にならない重い一撃に高杉さんの体は橋に叩きつけられるだけでなく、その橋さえも破壊して川の水面に落とされる。開いた穴から飛び降り高杉さんを追う似蔵。その手にある刀はもはや、刀と形容していいのか戸惑われるほどに禍々しい。

「おかしいねェ、アンタもっと少し強くなかったか?」
「ハッ…刀っつーより生き物みたいだとは聞いたが、化けモンの方が近いじゃねェか」

よろめきながらも立ち上がった高杉さんはまた似蔵と刀を交え始める。加勢しようにも、僕が入っていけば確実に足手まといになる。何もできず見ているだけしかできない自分が悔しかった。握り締めた拳が痛い。何もできない自分の弱さが、辛い。くそ、と毒づきながら欄干に拳を叩きつけた時、橋が大きく揺れた。

「高杉さん!!」

腹に深々と突き刺さった刀。止まることを知らないとでも言うように溢れる鮮血。それを見た瞬間思わず欄干に手をかけたが、後ろからエリザベスに抑え込まれ動けなくなる。そうしている間にも高杉さんの体に刀が刺さっていく。
何やら話しているらしかったが、此処からでは聞き取れなかった。高杉さんを死なせたりしない。突き動かすような衝動に任せてエリザベスから刀を奪い取り、橋下へと飛び込んだ。

「うああああああああ!!!」















 
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