短篇
□居場所は何処に
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※金魂篇設定 銀時+鬼兵隊
※たまと定春とはまだ会ってない
ふらり、ふらりと雨の降る街中を進む。
服がペタリと肌に張り付き不快だが、そんなことはどうでもいい。
いつもなら居酒屋の前などを通り過ぎれば、世話焼きな親父が傘を持たせてくれるが、今は皆、傘も持たずに雨に塗れて歩く自分に不信感を抱いた目線を向けるだけだ。
こんな所にまでも、奴の手は届いているのか、とひとりごちる。
いつの間にやら、銀がいた場所は金色に占領されていた。
自分を慕っていてくれた者さえも金色は奪っていった。
旧友さえも自分がいた場所を金色にすり替えていた。
金色に占領される寸前まで自分と共に居た真選組ならば覚えているだろうか、と真選組の前を通ったが、見知った顔の山崎も全く反応を見せなかった。
街中で巡回中の沖田や土方とすれ違っても、全くの無反応。
すでに自分を知る者はいないのだ。
神楽も、新八も、お登勢も、キャサリンも、お妙も、月詠も、さっちゃんも、九兵衛も、長谷川も、そしてヅラも。
皆金色を慕っている。
そして銀色の居場所などこの世界には無い。
それが堪らなく悲しい事に思えた自分に、あぁ、お前は弱くなったなと思った。
以前の自分なら、仲間がいないなど、全く堪えなかったのに。
どうせいつかは失うのだと、諦めていたのに。
そうして背負うことから逃げ出していたのに。
彼等に会って、また背負うことを始めてしまった。
それはそれで、楽しかった、充実していた。
しかし、背負ったモノはいつか零れ落ちるモノなのだという事も忘れてしまっていたのだ。
零れ落ちて、辛いと思ったのは自分。
だから背負うことをやめたのに。
零れ落ちたモノを拾おうとして、余計にそれは自分から遠ざかっていった。
そしてその事にまた傷つく。
ならば拾わねばいい。
それが結論だ。
そして歌舞伎町に、今迄背負ってきた全てを置いて出てきた。
それは全て奴が拾った筈だから、彼等に支障は無い筈だ。
行くあても無くさ迷い歩いていたが、一つ自分にはしなければしないことがあるのに気付き、ある場所へ向かう。
まだ一つ、背負っているモノ。
それを自ら手放す為に、目的の場所へと向かう。
歌舞伎町の喧騒から離れ、ひっそりとたたずむ寺。
そこを見つけ、歩を進める。
暫く歩けば、辺りに広がるは無数の墓石。
目的地へと向かうため、まだ足を止めたりはしない。
いつの間にか、雨音はしなくなった。
空を見上げれば、落ちてくるのは白いモノ。
それは地面まで落ちると解けて消えた。
雨からいつしか雪へと変わったソレが、積もることは無い。
ふわふわとしたそれが、自分の髪に似ていると言ったのは、誰だっただろうか。
しかし今となってはそんなこと、覚えていても仕方がないのだ。
それになんだか、頭の中がどんどんと白くなっていく気がした。
記憶がどんどんとあやふやになっていく。
ふらり、ふらりと進み続ける。
ああ、そういえば、初めてこの場所に来た時もこんな天気だった。
そんな事を考えているうちに、目的の場所へ辿り着いた。
自分が始めて、お登勢と出会った場所。
寺田辰五郎の墓。
そにには未だに、真っ二つに折れた煙管、そして岡っ引きの証である十手が置いてある。
「旦那、久しぶりだな」
そろそろと墓に歩み寄り、墓石をスルリと撫ぜた。
「アンタも、俺のこと忘れちまってんのかね」
元々辰五郎が自分を認識しているかは怪しいが、銀時は辰五郎と約束したのだ。
それも、一方的なモノだけれど。
しかしそれも、今となっては果たせぬのだ。
「旦那………悪ィが、あのババァのこと、死ぬまで俺が守るって約束……果たせそうにねぇや」
もう、歌舞伎町に銀の居場所はどこにもないから。
歌舞伎町を守ることも、出来ない。
次郎長にどやされるだろうか。
いや、きっと彼も自分のことなど忘れただろう。
「旦那、すまねぇ………本当に、すまねぇ………」
ズルズルとその場に座り込み、墓石に向かって頭を垂れる。
すまねぇ、すまねぇと、謝罪の言葉を並べ続ける。
そして、どれだけそれを続けたことだろうか。
いつの間にか雪は再び雨粒となって銀時の体から体温を奪っていく。
腕がガクリと折れ、バシャリと水しぶきをあげて体が地面に崩れ落ちた。
「すま……ねぇ…………だん、な………」
そして、ブツリと音を立てて、意識は途切れた。