短篇

□織姫の気紛れ
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2012沖誕








ふらりと市中見廻りの途中で寄った駄菓子屋の店先に、色とりどりの紙が吊るされた竹があった。
そういえば昨日は七夕だったか。

なんとなく気になって、買ったばかりの飴玉を口の中にほうりながら短冊を手に取った。
沢山吊るされた短冊に書いてあるのはどれも子供らしい願い事ばかりだ。

ヒーローになりたいだとか、あれが欲しいだとかこれが欲しいだとか。

子供にとっちゃ、七夕もクリスマスも同じようなものなのかもしれない。



まだ武州にいた頃、毎年七夕には庭先に竹を立てた。
それに、姉上と一緒に短冊やら七夕飾りやらを吊るして。
姉上が土方の野郎を呼んできたこともあったか。
その時には土方死ねと書きまくった短冊を吊るしたんだった。
それを見た姉はあらあらと言いながら苦笑していた。



そんなことを思い出したからかもしれない。
まだ店主が片付けて無かった短冊を一枚取り、さらさらと書き付けた。
それを適当な場所にひっかけ、見廻り再開。

織姫と彦星はもう昨日の晩にイチャイチャしたんだから、一日遅れの願い事など叶えやしないだろうけど。
元々叶えて欲しい願い事なんて書いちゃいない。

溶け始めた飴玉を噛み砕き、歩き始めた。
と思った瞬間ゴツンと頭に衝撃。
予想もしてなかったから前につんのめったが足を一歩踏み出して体制を立て直した。

なんだったんだと後ろを振り返れば、不機嫌ですと言わんばかりの表情をしたチャイナ娘。


「いきなり何しやがんでぃ!」

「ん」

不機嫌なツラのまま差し出されたのは先ほど吊るした短冊。


「なんだヨこれ!!もうちょっと叶えられそうな願いにするアル!」

「別に叶えて欲しい訳じゃねぇからいいんでさぁ」


いずれ自分で実行してみせるし、と付け足せば更に神楽は不機嫌丸出しになる。


「………じゃあ、そこでちょっと待ってるアル」


そう言うとクルリと反転し、駄菓子屋へと走っていった。
なんだってんだ、一体。
しかし待てといわれたからには待たなければいけないし。
ちょうど近くにあったベンチにごろりと寝転がる。
アイマスクも装着し、サボる準備は万端。
あとは寝るだけというときに、またもや頭に衝撃。


「てめぇ、俺がバカになったらどうすんでぃ!」

「元々バカだから問題無いアル」


そう言うと酢昆布を握った左手を差し出してきた。


「これ、やるヨ」

「俺別に酢昆布好きじゃねぇ」

「元はといえば叶えられそうな願い事書かなかったお前が悪いネ!」


つべこべ言わず受け取れヨ!と言うと、ぽいと酢昆布を投げられた。
それを受け取ると、目の前のチャイナ娘がニィと笑う。


「お前もまた一つジジイに近づいたアルな」


誕生日おめでとヨ、と吐き捨てると、神楽は走り去っていった。

寝転がったまま酢昆布をポケットにつっこみ、アイマスクを元の位置に戻す。


「どうせ、てめぇも半年後にはババァに一歩近づくんでぃ」



その時には、酢昆布でもくれてやろうか。




〈織姫の気紛れ 終〉


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