短篇

□彼らの日常
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紅色の淵にの続き
こいつらが出てきます






茹だるような暑さの中、坂田は書類の束に襲われていた。
外で鳴いている蝉にさえイライラするらしい。


「あーつーいーだーるーいー」


後ろで呻く坂田を無視して自分の仕事を進める。


「無視すんなオイ」

「手伝ってやってんだからテメェもしっかりやれや」


チッと舌打ちを漏らすも、机に向き直るのが分かった。
やれば出来る癖に、自分からやろうとはしないのだから困ったものである。
今日も今日とて副隊長に言われなければ逃げていたであろう。
今も逃げないように、障子の向こう側にはこの部屋の見張りがいる。
恐らく見張っているのは、コイツのことでは無く俺の方なのだろうが。

障子の向こう側からの殺気に、思わずため息が漏れる。

















「土方ァァァァァァ!!」

朝方の稽古を終え、ひとっ風呂浴びようかと思っていると後ろから悲鳴に近い坂田の声がした。
他の声も聞こえてああまたなのかと悟る。

無視して歩を進めようとすれば足に衝撃が走った。
嫌々下を見れば、両足にしがみ付く坂田。


「離せやコラ」

「土方君部下の癖に俺を見捨てる気か!薄情な!」

「薄情じゃなくて銀時隊長が仕事をなさらないのが悪いんでしょう」


嫌な奴が来た、と振り向くと、坂田の隊の副隊長…つまり俺の上司という立場にある男が立っていた。


「雫弥…俺は今から出かける予定だから、土方君が全部俺の代わりにやってくれるから!」

「誰がやるっつった、やらねぇよ!」

「何回その言い訳使ったと思ってるんです?行きますよ」


霧野が坂田の襟をむんずと掴み引きずって行こうとするも、俺の足から手を離さない。


「いい加減離せ!俺はやらねぇ!」

「この間負けた癖にやらなかったじゃねぇか!」


その言葉がグサリと突き刺さる。
先日勝手にコイツが総悟と賭けをし、結局俺は桂に負けた。
その時の条件を坂田は保留にしたままだった。
だからと言ってこのタイミングは無いだろう。
心の底からあの時桂の突きを躱すことができなかった自分を恨んだ。


「という訳だからやっといてくれや」


にやりと笑い立ち去ろうとした坂田の腕を霧野が鷲掴みにする。
ニコニコという音がつきそうな程満面の笑みを浮かべながら額に青筋を浮かべている。


「そういう事でしたら隊長は溜まりに溜まった今までの書類等を片付けていただきましょうか」

「………はい」

「逃げようとしても無駄ですよ、見張りつけるんで」

「雫弥君用意周到すぎて怖い」

「こちとら他の仕事も片付けなければならないので」


拓人と陽香つけておきますから、とだけ言って去って行く霧野の背を見送りながらため息をつく。
どこの組織でも副長職というものは苦労が多いらしい。


「……行こうか、土方君」

「……ちなみにテメェ、仕事どれだけ溜めてんだ」


さぁ?と返してくるコイツを殴ってもいいだろうか。
殴った場合、なんだかんだ言ってコイツの信者な副隊長殿が凄い形相で走ってくるのだろうが。






という訳で、書類の山を片付けている訳である。





 
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