短篇

□棘
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銀魂深夜の即興小説45分一本勝負
お題「棘が刺さりました」



「銀時?」

戸棚をごそごそと漁っていたら先生に見つかった。
思わず振り返ってしまい、先生が俺の顔を見た途端青ざめた。


「どうしたんですかそれ!」

「…転んだ」


駆け寄ってきた先生が心配そうに俺の顔を見てくる。
こんな顔はさせたくなかった。
だから一人でこっそりやろうとしたのに。


「…早く消毒しなきゃいけませんね」

「いいよ、一人でできるから」

「適当に済ませちゃうじゃないですか」


うっ、と詰まると先生は困り顔で頭を撫でてきた。
俺の嘘なんて先生にはお見通しなんだろう。


今日は授業が無かったから高杉達といつもより遠くに出かけた。
遠くと言っても町外れくらい。
大分ここにも住み慣れてきたと思ってた。
二人もそうだと思って安心してたんだろう、用事があると先に帰ってしまった。
また明日、と別れてすぐのこと。
いきなり知らない子供達に絡まれ、大人のいない場所に連れ込まれた。


「こいつが鬼子か?」

「こんな色してんだからそうだろ」

「は、気持ち悪ぃ」

ああ、またか。
慣れることができたと思っていたのは俺だけ。
受け入れられてなんかいなかったんだ。
でも、こんなのには慣れてる。
これは本当。


「……帰りたいんだけど」

「帰る?吉田さんとこにか?」

「あの人も変な人だよなぁ、こんなん拾ってくるなんざ」

「あの人だけじゃなくて高杉達もだろ?」

「ああ、言えてるわ」

「……ッ」

げらげらと笑うそいつらに、酷くイラついた。
自分のことはもう慣れた。
それが当然なんだろうから。
でも、先生達はそんなんじゃない。
俺と一緒にしちゃいけない。

「お前がいるから、吉田さん達おかしくなっちまったんだよ」

そう言われて、心臓が止まった気がした。
殴りかかろうと思って握った拳も動かない。
全部俺のせい。
動けなくなって何も喋れない俺。
そいつらは俺を何度か殴っても反応が無いことにつまらないと思ったのか、舌打ちを残して去って行った。


先生にはばれたくなかったのに。
きっとこの人は俺以上に悲しむだろうから。


「傷口、まだ痛いですか?」

「…大丈夫」


結局丁寧に手当てをしてくれた先生はぱたんと薬箱を閉じると俺の横に座った。
なんとなく目を合わせ辛くてうつむいていると、ぽんぽんと頭を撫でられる。
それでも、顔を上げたくなかった。
傷は痛まないけれど、なんだか。

「先生、」

「…どこか痛いんですか?」

「どこかわかんないけど…じくじくする」

自分でもよく分からなくて先生の着物の裾をぎゅうと握る。
分からない。
先生が治してくれたからどこも痛くないはずなのに、なんでなんだろう。
どこが痛いのか分からないんだ。
先生は俺の頭を撫でながら、そうですかと呟いた。


「心に棘が刺さってしまったんですね」

「とげ…?」

「まだ少し、銀時には難しいかもしれません」


分からなくて先生を見上げれば優しい笑みを向けてくれる先生。
それを見て、なんだか痛みが少し止んだ気がした。


「辛い、という感情ですかね…」

「体は痛くないよ、」


慣れてるから、とは続けられなかった。
先生を困らせたくはない。


「言葉で説明するのは難しいんです…でも、銀時」

「なに?」

「いつでも私がその棘を抜いてあげますから」

痛い時はいつでも言ってください。
そう言って微笑む先生を見ていたら、なんだか気にならなくなった、気がした。







不完全燃焼……

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