短篇

□私の隣
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銀魂深夜の即興小説45分一本勝負
「いつだって、あなたがいた」



気づいた時には、見知らぬところに立っていた。
荒れ果てた光景に、何故か反射的に後ずさった。
後ろに下がった足に、何かがぶつかった感触。
恐る恐るそちらに目を向けると、見知らぬ白髪の女の人が、こちらに手を伸ばしたまま息を引き取っていて。
それを認識した途端、息が止まった気がした。
それから逃れるように、走って、走って。


まさか、私がやってしまったんだろうか。
夜兎の血に呑まれて。
信じたくない、けど、こんな光景知らない。
ここに来る前はだって、万事屋で銀ちゃんと新八と三人でくだらないことを話してたはずで。
それから今までの記憶が全く無い。
逃げるように走っても走っても、進む先には同じように倒れている人ばかり。


怖い、怖いヨ。
私がやってしまったんじゃないか。
夜兎の血に負けないよう強くなるって決めたのに。
私、負けちゃったの?
わからない、けど、怖いヨ。


「助けて…銀ちゃん!」








がばっ、と跳ね上がるように起き上がった。
はぁはぁと荒れる呼吸。
暫く自分がどこにいるのか分からなくて、怖くて。
周りにまだこっちを見ているあの人達がいるんじゃないかと心配で、無我夢中で辺りを見回して。
そこがいつも自分が寝起きしている押入れの中だって気づいたのは、息が大分落ち着いてからだった。
それでもまだ自分の体は震えてて、止まらないそれに思わず両腕で自分の体を抱きしめた。
本当に、怖かった。

「…銀ちゃん」

一人で寝るのが怖いなんて言ったら、馬鹿にされるんだろうけど。
それでも今は一人になりたくなかった。
人の、ぬくもりが欲しい。

そろりと音を立てないように、戸を開けて。
もしかしたら定春は賢い子だから起きているかもしれないけれどと思って下を覗くと、すーすーと寝息を立てる定春が。
起こしてなくて良かった。
ほっとしながら押入れから降りて戸を閉める。
向かうのは、銀ちゃんが寝てるはずの場所。
ゆっくり、ゆっくりと足音を立てないように。
起こしたりはしない。
ただ、その間抜けな寝顔を見て安心したいんだ。

いつも以上に気を使って襖を静かに開けて、銀ちゃんの枕元に近づく。
ぐっすりと眠っている銀ちゃんの思った通りの気の抜けた顔を見て、強張っていた体の力が抜けた気がした。
…もう少しだけ。
寝相が悪いせいで布団からにょっきりと出ているその手。
それをゆっくりと握ると、あったかい銀ちゃんの温度が伝わってきた。
本当に、あったかい。

いつも私や新八を守ってくれる大きな手。
守られるだけじゃなくて、自分たちだってこの人を守りたい。
そう思って頑張るけど、やっぱりこの手のあたたかさにはまだ勝てない。

「人の手握って楽しい?」

「…別に」

どれくらいそうしてたのか分からない。
けど、自分が思っていたより長い時間そうしてたらしく、いつの間にか銀ちゃんが起きてた。
目が合った時に、少しびくっと肩が跳ねたのにきっと銀ちゃんは気づいてる。

「どーしたよ、心霊番組でも見たか?」

「銀ちゃんと一緒にすんなヨ」

「俺がいつ怖がったよ」

「さっき心霊映像特集見た後ガクブルしながらトイレ行ってたネ」

「……んなことねーし」

「いーや神楽様の目はごまかせないアル」

じと目でこっちを見る銀ちゃん。
こんな話をしにきた訳じゃないけど、もう少し話していたかった。
まだ、頭のすみっこにさっきの光景がこびりついてて。

「じゃあそんな神楽様にお願いがあるんですが」

「何なりと言うヨロシ」

「天井から貞子降ってこないか見張っててくれや、布団持ってきていいから」

「……」

「その蔑むような目やめろ」

「…しゃーないアルな」

ずるずると自分の布団を引っ張ってきて、銀ちゃんの隣に並べる。

「おっさん臭い」

「誰がおっさんだ」

いいから見張ってろ、と言いながら銀ちゃんが目をつむる。
さっき握っていた手をこっちに出したまま。
自分も寝転がって、何も言わずにその手を握ると、少しだけ握り返すその手。
ちらと視線を送るけど、閉じた目はもう開かないらしい。


「……おやすみ」

「おう」


見張りを頼んだくせに、私が寝たら意味ないじゃないか。
そんな風に思いながら、目をつむった。
もう、悪い夢は見ない気がする。






































「……銀ちゃん」

いつも私がその手を求めた時には隣に来てくれた銀ちゃんはもう私の隣にも、どこにもいない。
私も新八も変わってしまったけど、あなたのその手が私たちをあたためてくれるのは、変わらないのに。
その手はもう望んでも、手に入らない。


地面に倒れる白い髪の女の人。
その人だけじゃない、みんな真っ白。
いつか夢で見たその光景は、今目の前に広がっている現実。
あの時は、逃げて逃げて、起きたら銀ちゃんの暖かい手が待ってた。
けど、今はどこに逃げても、白い呪いからは逃げられない。
そして、あのあったかい手も、どこにも無い。

「ねぇ、銀ちゃん」

私が今度は素直に怖いって言ったら、またいつもみたいに私の隣で、その暖かい手を貸してくれますか。





私の隣。
(願っても、もう私の隣には)


なんとなく完結篇イメージ

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