〜武闘神伝〜

□二章 道中
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大通りを必死で抜け出し、人の少ない場所へ辿り着いた。



「おいお前いい加減止まれっ!」

「いったァァァァァァァァッ!!」

白夜叉のその声と共に、頭部に激痛が走った。
思わず口から悲鳴が上がる。
頭部に激痛をくらわした物がなんなのが確かめる為、睨むように後ろに視線をやった。
するとそこには地面に飛び降り、自分に向かってガンを飛ばしてくる白兎がいた。
おそらく白兎が自分の頭に飛び膝蹴りか何かをかましたのだろう。

「テメェ、何、銀に走らせてんだ!阿呆が!あんな街中じゃ技も使えないし式神も呼べないんだかんな!!」

「あっ………すいません…。」

走る事がそんなに不味かっただろうか。
だが、今それを言えば、更に白兎が激怒するのは目に見えている為、素直に謝る。
白夜叉は息を荒くしながらも、新八に笑ってみせたが、それは随分と辛そうなものだった。

「知らなかったのだろうが、少年、銀にとって、いきなりの運動は体に害を及ぼす危険な物だ。気をつけろ。」

「そうなんですか…本当にすいません。」

「悪ぃ、な。ちっと、休ませてくれ……」

黒兎も白兎と同様に白夜叉の肩からピョコリと飛び降り新八に声をかけてきた。
白兎とは違い、落ち着いた声音だったが、黒兎もきっと、同じように思っているのだろう、表情が硬い。
白夜叉は道端でしゃがみ込み、膝に頭をうずめた。
白兎と黒兎も心配そうに白夜叉に駆け寄り、覗き込むように顔色を窺った。
白夜叉はそれに気づくと、大丈夫だ、とでも言うように二匹の頭を撫でた。

暫くそうしていると、漸く平気になったのか、白夜叉はゆっくりと立ち上がったが、一度フラリと傾いだ。


「「銀っ!」」


しかし白夜叉は片足を踏み出して、倒れるのは防いだ。


「もう、大丈夫だ。でも、悪ぃ、自分じゃまだ歩けねぇから、少年、ちょっと時間くれ。」

「あっ…はい。」


許可を出すと、白夜叉は白兎を呼び寄せた。


「銀、俺が戻って銀をおぶうか?」

「ざけんな、んな事頼む訳ねぇだろ。」

「え〜…」

「え〜、じゃねぇよ。ほれ、灰呼んできてくれ。」

「すぐ戻ってくるから、黒兎、それまで銀のこと頼んだからな!」

「言われなくとも分かっている。」

「もう俺、ガキじゃねぇんだから、そこまで心配しねぇでいいっつの。」


白夜叉が呆れ気味に言うと、白兎はニッ、と笑ってから、ボンっ、と白い煙をたてて消えた。
それを見届けると黒兎は立ち上がった白夜叉の右肩へピョコッと飛び乗った。
どうやら彼の右肩が黒兎の定位置らしい。
ということは、左肩は白兎の定位置か。
そんな考察をしていると、黒兎が新八を呼んだ。


「なんですか?」

「白兎は今、灰…銀の式神の妖狼を呼びに行った。」

「はぁ…」

「灰はまだ幼い。故に自分で妖力を隠すことができない。」

「そう、なんですか?」

「俺達は今、お前が俺達を見ることができる程度の妖力のみ出している。灰にはその調節ができない、だから只人にもその姿が見えてしまう。」

「それってまずいんじゃ…」

今はお天道様が自分達の真上にある、真昼間だ。
夜間ならば妖が街を徘徊していようが、それが日常となっている為、住人も気構えがある。
だが昼間となっては、住人は混乱するだろう。
ならばその灰という妖狼を呼ぶのは不味いのではないだろうか。


「最後まで聞け。灰は自力では妖力を隠せないが、誰かの助力があればそれができる。まぁ、助力というよりは、俺が全てを行うんだがな。それをするから、俺は少し姿を変える。この姿だと力を出し難いんでな。だから俺だけ後からついていく。だから俺が消えたら、そういう事だと思ってくれ。」

「あ…はい、わかりました。でも、姿を変えるって…」

「どこにも害は出ない、心配するな。」

「はぁ………」


新八はそこが気になった訳では無かった。
ただ、黒兎が姿を変えることができる、と聞き、どのような姿になるのだろうか、と気になったのだ。
今、彼…(だと思う)は黒い兎と黒い狐を足して二で割ったような姿だ。
簡単に言えば、狐のような毛並みをした、狐ほどの大きさの兎である。
これがどう変わるのだろうか。
今はこんな可愛らしい姿だが、おぞましい怪物のようになるのだろうか。
姿を変えることができる妖(では無いと言っていたが)は、力が強いと聞いている。
その中でも、人型に変われる者は稀に見る妖力の持ち主だそうだ。
彼は、どうなのだろう。
それが気になって、黒兎をもう一度一瞥したが、それと同時に、大きな白煙が上がった。


「うわっ!!」

「おっ待たせー。灰連れて来たぞー。」

「おー、ご苦労さん。」

白煙が消えると、そこに居たのは人が乗れる程に大きな体躯の妖狼と、その背に乗っている白兎。
そして白兎はピョコッと飛び跳ね、白夜叉の左肩に着地した。
やはり白兎の定位置は彼の左肩のようだ。
その白兎と相対する色を持つ白夜叉の式神がいるはずの場所を見ると、すでにそこからは消えていた。


「あー、黒兎が『姿消し』やるのか。」

「あぁ。まぁ、どっかしらにいるだろ。」


白兎と白夜叉の会話からすると既に黒兎はどこかにいるのだろう。
だが周りを見渡してもどこにもいない。
周りをきょろきょろと見渡す新八に気づいたのか、白夜叉が声をかける。


「黒兎なら探しても見つからねぇよ。あいつ自分にも姿消しかけるからな。」

「それって相当妖力使うんじゃ…」

「ま、アイツなら平気だろ。…な?灰。」


そう言って、白夜叉は灰と呼ばれた妖狼の頭を撫でた。
灰は目をつむり、気持ち良さそうに喉を鳴らす。
そして白夜叉は灰の背に飛び乗り、灰の頭を二度軽く叩いた。
すると灰がゆっくりと歩き出す。
それに慌てて新八がついて来る。


「ちょ、待ってくださいってば!」

「少年、普通の奴等には俺達見えてねぇ
ってこと忘れんなよ?」

クスクスと笑う白夜叉に、新八は慌てて口を押さえた。
自分には彼等が見えているから、あまり実感が沸かない。
あぁ本当に、先程の人たちには変な奴だと思われただろうか。
それだけが、気がかりである。
それを気にしたが、今は、彼等の道案内が先決だ。
気を取り直し、彼等の背を追った。







《二章 道中 終》

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