〜武闘神伝〜
□三章 再会
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「ここです、長いこと歩かせてしまってすいません」
我が家の門の前で後ろを振り向けば、僅かばかり目を見開く白夜叉がいた。
「白さん…?」
「…え、あぁ……なんでもねぇ」
「銀…」
大丈夫なのか、と心配そうに白夜叉に問う白兎に、何がだろうと思った。
何に動揺しているのか、ぎこちない笑顔で大丈夫だと返す彼に、何か悪い事をしてしまったのだろうかと不安になる。
その不安を察したのか、大丈夫だってと苦笑する白夜叉。
「礼してくれんだろ?なら行こうぜ」
僕の肩を軽く叩き門をくぐろうとする彼。
だがしかしそれは、
「ちょっと待ってくださいっ!」
一応陰陽師の端くれの家であるこの家にはそれなりの防護結界が張られている。
故に居住者の許可印を与えなければ結界は作動してしまう。
すなわち印を持たない彼は、なんらかの影響を受ける。
しかし止めるのが遅かった。
彼が門の中に足を踏み入れた瞬間、思わず目を瞑った。
が、一向に何も起こらない。
恐る恐る目を開けば、何も変わらずにそこに白夜叉はいた。
「あれ…?」
「何してんだ、行かねぇの?」
「あ…いえ、行きましょうか!」
結界に綻びがあったのだろうか。
慌てて背を追い、彼の前を歩く。
「広い家ではないですが、ゆっくりしていってくださいね」
「んー、まぁ確かに広くはないわな、こう見ると」
その言葉に何か含みを感じたが、下から聞こえた声に、思考はどこかへ飛んでいってしまった。
「灰を帰してきた。遅くなってすまんな」
「おー、ありがと」
「あ、黒さん」
「黒さんと呼ぶな人間風情が」
くわっ、と牙を向けてきた黒兎。
なんでこんなに偉そうなんだとツッコミたい衝動に駆られたが寸前で耐えた。
自分が誘ったのだから我慢しなければ。
短い道を歩き終え、戸の前に立ち、その戸を開けた。
「ただいま帰りました!」
「あら、新ちゃんお帰りなさい。…その方は?」
廊下から出てきた姉に帰宅を告げると、どうやら後ろの白夜叉に気づいたらしい。
「あ、この人はさっき僕を助けてくれて…何かお礼がしたいなと思ってお連れしたんです」
「そうだったの、弟がご迷惑おかけしたようで」
「あー、いや、別にたいしたことはしてねぇんで」
「狭い家ですけど、どうぞごゆっくり」
にこりと笑った姉は来た廊下を足早に戻っていった。
上がってもらうのはいいが、さすがに家主に言わない訳にはいかないだろう。
恐らく姉は客の来訪を伝えに行ったのだろう。
気難しい人ではないから、大丈夫だとは思うが、白夜叉は人間では無い為、彼が受け入れるかどうかは分からない。
だがその時はその時だ。
誠心誠意頼み込むしかないなぁとぼんやり考えながら白夜叉と共に家にあがる。
「とりあえず、家族に紹介したいので来てもらってもいいですか?」
んー、と聞いてるのか聞いてないのか適当な返事をする白夜叉。
彼の肩には再び白と黒が乗っている。
長くは無い廊下を歩いていき、家の最深部にある家主の部屋に着く。
恐らくこの中に姉もいるだろう。
からりと障子を開け、頭を下げる。
「新八です、ただいま帰りました」
「おかえりなさい。それで、お客様というのは………おや、」
頭をあげると彼の視線は僕を通り越して後ろへと向いていた。
「………せん、せい?」
酷く弱々しいその声は、自分の後ろから聞こえたものだった。
後ろを振り返ると、信じられないという顔をした白夜叉がいた。
白兎も黒兎も同様で、まん丸い目をこれでもかと開いている。
「なんで……」
「白さん?」
ぽつんと呟かれたその言葉の意味がわからずに声をかけるが、彼には目の前にいる家主にしか意識がいっていないらしい。
どういうことだろうと彼の目線の先を見れば、今までに見たこともない程に嬉しそうな顔をした家主がいた。
「…久しぶりですね、銀時」
銀時、という名が誰を指すものなのかわからなかった。
が、その声に反応を示した人が一人いた。
「せんせい……」