企画

□とりはそらをこう
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「頭、もう少しで着くき、出すんじゃないぞ」

「うっ………そりゃぁちくっと難しいかもしれんのぅ…………うっぷ…」

「気合で腹に戻せ」

「………鬼畜ぜよ…」

「何か言ったか」



ジャカ、と音を立てて、陸奥の拳銃が坂本の頭に向けられる。
有無を言わせない、ということだろう、これは。

喉元までせりあがっていた物を気合で押し戻し、気合で腹に留める。
気合とは恐ろしい物である。
命の危機が迫ると気合というものの威力は跳ね上がる。
それを久しぶりに実感した坂本だった。


「少しぐらい我慢できるじゃろうが」

「気合…かえ?」

「そうじゃな」


この女は気合をなんだと思ってるんだろう。
もしかしたら陸奥は、気合だ、気合だと連呼する彼の大ファンなのか。
そんなに気合ってすごいのか。
というか気合ってなんだったか。
ゲシュタルト崩壊してきた。


「なぁに考えとるか知らんが、もう少しで地球じゃ。着いたら外の空気でもすってくればいいじゃろ」

「いや、これはすまいるに行かないと治らな「何か言うたか阿呆」


音を立てて放たれた弾丸が顔面スレスレを通って床にめり込んだ。
そこからは白い煙がのぼっている。

だらだらと頬を流れる汗を感じながら、ジョークじゃき、と笑えば凶器は懐にしまわれた。
本当にこの女は。


「なんでもいいき、とにかく船内で吐いたら蜂の巣にしちゃる」

「そりゃあ困るぜよ。そがな事されたら身体中スースーしてたまらんき」

「おんしの頭の中はどうなっとるんじゃ」


呆れたような眼差しを向けられ、いいから外に行ってこいと背を蹴られた。


蜂の巣にされる訳にはいかないと渋々甲板に出れば、まだ高度が高い所にいるのか、少々冷たい風が肌に当たった。
この冷たさで、少しばかり吐き気はなくなった。


久方ぶりに上空から江戸の街を見下ろす。
あそこの中の何処かには旧友二人がいるのだろう。
はてさて、今回はもう一人いるだろうか。

いるならば久し振りに万事屋に三人で乗り込むのもいいかもしれない。
きっと銀時につまみ出されるだろうから、土産も持って行かなければ。
すまいるに行くのもいいが、たまには旧友に会いたくもなる。

ああしようかこうしようかと考えているうちに、いくらか高度が下がったのか、暖かな風が頬を撫ぜた。


「こりゃあ昼寝日和じゃのぅ」


くあぁと大きな欠伸を一つ。
甲板に寝転がれば、視界いっぱいに青が広がる。
久し振りに見たその色に、スッと気分が軽くなる気がした。

そんな青に飛び込んできた色が一つ。
こんな上空でお目にかかれるとは思ってもいなかった客人を指先にとめてやれば、パタリと羽を閉じる。


「おんし、不思議な色ばしちょるのぉ………」


どうも、とでも言うようにひらりと羽ばたいた蝶に別れを告げた、と同時に訪れた睡魔に身を任せ、目蓋を閉じる。
目をつむっても尚、目蓋に焼き付いて離れない青色に、これはいい夢が見れそうだとひとりごちた。









 
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