企画
□白鬼は嗤う〜第一章〜
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…と、思っていたのだが。
主に高杉と神楽の焼きそば争奪戦によって時間が無くなり、言われていた場所にたどり着くと青筋を浮かべたお登勢が仁王立ちで待っていた。
「すいまっせんでしたァァァァァ!」
「本当だよアンタ、人が家賃免除にしてやるって言ってるのに遅れてくる奴があるかい」
「いやぁもう返す言葉も…」
「悪いのはこのクソガキだ」
「いい大人が責任押し付けるんじゃねぇヨ」
「別にこの依頼アンタらじゃなくても構わないんだがねぇ」
「「「すいまっせんでしたァァァァァ!!」」」
万事屋のお財布事情は甘くないのである。
三人で綺麗に45°に頭を下げると呆れたようにお登勢が笑った。
「まぁちゃんと仕事してくれるなら構わないさ。それで今日の依頼なんだけどね…」
ガシャーン!ウィーン、ドガガガガ!
「……この騒音の主をなんとかして欲しいのさ」
お登勢の言葉を遮るように聞こえてきた騒音。
どうやら目の前の建物から聞こえるものらしい。
「なんなんですかこの音…」
「ここに平賀源外っていう機械技師(からくりぎし)が住んでてね…朝から晩まで機械弄くり回してるもんだから、近隣住民から苦情が来てるのさ」
「確かにこれは楽しみにとっておいたアイスを他人に食べられたのと同じくらい不快アルな」
「いや二日酔いで寝ていた所を無理矢理起こされる位不快だ」
「まだ根に持ってるんですかアンタ」
「とにかく、どうにかしてこの音を止めてくれたら家賃チャラにしてやるから、しっかりやるんだよ!」
そう言って遠くでヒソヒソと話している近所の奥さん方のところへと行ってしまったお登勢。
残っているのは万事屋三人と一匹だけだ。
「さて…家賃の為にもやるか」
「明日のご飯の為ネ」
「とにかく、万事屋の財布の為に成功させましょう!」
「これだけの不快音だ…対抗策は一つしか無ェだろ」
そう言ってどこからか馬鹿デカいラジカセを取り出した高杉と、マイクを取り出した神楽。
それに習うようにして自分もマイクを取り出す。
「目には目を、歯には歯を。騒音には騒音を、だ。ククク…俺達の無慈悲なる不協和音の前に屈するが良い」
終わりのはじまりだ、と深刻な中二病を発動させた高杉がラジカセのスイッチを押したその時。
それまでとは比べ物にならない騒音が歌舞伎町に響き渡った。
「お前の母ちゃん何人だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「おぉ、流石音痴ネ」
「テメェ等何やってんだァァァァァァ!」
黒板を引っ掻くような音、女性の金切り声、般若心経、耳鳴りのようなキーンという音、エトセトラエトセトラ。
とりあえず不快になりそうな音をごっちゃにした録音済カセットテープと、聞いていられないレベルで音痴な新八の歌声がごちゃごちゃに混ざり合った、高杉の言う不協和音が大音量で流される。
遠くでこちらを伺っていた奥様方は頭を抱え込んで蹲っている。
そんな中そこから全力で高杉に駆け寄って来たお登勢は流石というべきだろうか。
「あ?ババァ、何か言ったか」
「音止めろって言ってんだよ!」
もちろん万事屋メンツは全員しっかり耳栓着用済みなので、騒音の餌食になっているのは奥様方とお登勢、そしてターゲットだけだ。
「何言ってるのか全く聞こえ無ェから続行だ」
「「あいあいさー!」」
「耳栓外せェェェ!」
「人ん家の前でうるっせぇんだよテメェらァァァァァァァ!!!」
家主が出てきたので結果オーライだろう、たぶん。
「これで家賃チャラだろババア」
「私も歌いたかったアル…」
「アンタ達…耳栓持ってたんだったら私にも寄越せっての…」
「いやーすっきりしたー!あ、すいませんお登勢さん、耳栓三人分しかなくて」
「…アンタ、もう人前で歌うんじゃないよ」
ツッコミ不在で疲労困憊のお登勢だった。