捧げ物

□安心できる場所。
2ページ/5ページ



その頃銀時は、歌舞伎町の路地裏で壁にもたれ掛かり、荒い呼吸を繰り返していた。

腹部からは鮮血が滴っていて、自分でも血が足りずに頭がクラクラとしているのが分かる。

依頼でヘマをして怪我をし、腹に穴を開けてしまったのはいつもの事だからいいと思ったのだが、神楽と新八に心配され、真選組に連れていかれた。

…が、いかんせん彼等は特殊警察であって、応急処置には慣れているが、本格的な治療は下手である。
むしろ自分でやった方が早いのではないか。
それが真選組の屯所から逃げ出した理由の一つ。

そしてもう一つは、居づらいのである。
怪我を見て近藤が銀時達を屯所に入れたのはいいが、屯所にはあの土方十四郎がいるのだ。
一体どんな厄介事に首をつっこんだのだ、と、視線で伝えてくる。
……ハッキリ言って、いたたまれない。


という訳で出てきたのだが、傷口が開いてしまったようだった。

…やはり応急処置程度の事しか済まされていない。

このまま病院へ向かっても良いのだが、何があったか説明するのが面倒だ。
そう思った時、懐に携帯があるのを思い出した。
左手で腹部の傷口を押さえながら、震える右手を𠮟咤して携帯を取り出し、アドレス帳のタ行から一つの名を探し出した。
坂本に貰った白銀の携帯に己の血がところどころ付いてしまい、あぁ、またあいつに買って貰わねば、と、一瞬そちらに気がいったが、すぐにアドレス帳に気を向ける。
その電話番号に電話を掛ければ、ワンコールもしない内につながった。

『銀時ィ、テメェから電話とは、珍しいこともあったもんだなァ。』

「うる、せぇ…な…別にいいだろ…」

『…………どうした。』

途切れ途切れに言った為か、もうバレたようだ。

「お前今江戸にいるか…?」

『あぁ、ついでに馬鹿モジャもいるぜ。』

「だったら…ちょい手ェ貸せ……今歌舞伎町に居るからちょっと来い…」

『…万斉行かせるからちょっと待ってろ。』

それを最後に電話はプツリと切れた。

これでおそらくは平気だろう。
そう思うとピンと張り詰めていた気が抜けた。
これでおそらくは平気だろう。

そんな事を考えていた。

「銀時、その怪我は………」

…………まだ五分もたっていないのに万斉が現れた。
鬼兵隊にはとんでもない化け物が多数所属しているようだ。

「万斉か……悪ィ、ちょっと高杉のトコまで連れてってくれ。」

「……分かったでござる、だから安心するといい。」

「………頼んだぜ。」

それを最後に、銀時の意識はなくなった。



  
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ