捧げ物
□かりそめ
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夜闇にギラリと光る紅。
それを見つけ、ヒイィッと情けない声を上げて逃げる天人。
その天人の逃げる道の先に、ヒラリと人影が舞い降り、天人の退路を塞ぐ。
「ククク……逃げられねェぜ?」
「ヒッ!!」
「そーいうこと。」
立ち往生する天人の後ろから、白い鬼がゆっくりと歩み寄ってくる。
鬼の手には天人の同胞の血でぬらりと光っている。
その鬼の口元はゆるりと弧を描いていて、それがなおさら天人の恐怖心を駆り立てた。
「せめて苦しまねぇで逝きな。」
ザシュ、と喉元を斬られ、天人は息絶えた。
バタリと倒れる天人には目もくれず、白い鬼は血振りをした刀を鞘に納めると、天人を足止めした男にそれを投げた。
男はそれを難なく受け取り、ククッと笑った。
白い鬼はそれに笑みを返すと、くるりと踵を返し闇の中へと歩いて行った。
「クククッ……」
ひとしきり笑った男もそれに続くかのように、闇へと消えてゆく。
後に残るは、恐怖と驚愕に目を見開いた天人のみ。