捧げ物
□君を扶く
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ジャラジャラと耳障りな音を立てて、手首と手足から伸びる鎖が自分をきつく拘束する。
両手両足に二つずつつけられた鎖は動く度に体を締め付ける。
取り付けられた太い鎖が重い。
斬られた身体がジンジンと痛む。
いや、感覚などとうになくなっているが。
俺が捕まってから何時間たったのだろう。
アイツ等は本拠地まで戻れただろうか。
俺は、死ぬんだろうか。
そんな事を考えて、それも良いかもしれないとふと考えた。
「死ぬなら早い方が良いなぁ………」
その方が痛いの早く終わるし。
きっと桂あたりが聞いたら殴られるだろうなと思うと、こんな状況なのに口元が緩んだ。
口うるさい幼なじみ達とももう会えないかと思うと少しばかり残念だが、それが自分の運命ならば仕方無いかと、柄にも無い事を考えている自分に苦笑する。
何故こうなったかといえば、話は数刻前に戻る。
辺り一面無数の天人。
無傷で此処から抜け出すことは出来そうにない。どうしてこうなったかといえば、敵軍の駐屯地に乗り込もうとした所、それを読まれて囲まれ絶体絶命、という訳である。
「隊長、どうなさいますか………」
そう隊士に問われ、暫し思案する。
しかし浮かぶのは使えない考えばかり。
こうなったら、一点突破しか無いか。
そんな考えに至った時、隊士達が目に入る。
自分の率いた隊の危機は、自分の責だ。
それに、元はと言えば敵地に乗り込むという策を講じられて、それを受け入れた自分が悪い。
隊士達に何一つ責は無い。
一点突破などという、死傷者が幾ら出るかわからない一か八かの賭けに、彼等を巻き込む訳にはいかない。
ならば、自分だけが責を負えば良い。そうして出した結論が、自分がおとりになる、という事だった。
「お前等は先行ってろ。」
「………隊長はどうなさるつもりですか。」
「すぐ追いつく。」
「…ッ、分かりました、必ずまた!」
「あぁ。」
走り出した隊士達には視線もくれず、ただ目の前の天人共を見据える。
走り出した隊士達を見た数名の天人達が逃がすまいとそれを追う。
そして自分もその背を追い、切りつけた。
「おーっと、此処から抜け出せると思うなよ?」
「戯言を!!囲まれているのは貴様だ!」
「全部斬りゃあいいんだ。だろ?」
それを聞いた天人共がギヒヒ、と下品に笑う。
「馬鹿を言え、白夜叉といえど、所詮は只の人間。そのような事、できる筈も無い。者共、かかれェェェ!!」
…………………と、大見得を切った挙句捕まったのである。
まぁ、なんというかもう痛々しい。
自分でもそう思った。
高杉に負けない位の中二病に見えたんじゃないか。
もしそうだったら人生最大の汚点だ。
考え直すまでもなく人生最大の汚点。
高杉に言ったらぶった斬られるか部屋の隅で泣かれるかの二択。
是非後者でお願いしたい。
ていうか絶対そっちで。
誰かに脳内を見られたらきっと盛大にツッコミを入れられるだろう。
なんたって考えていることが場に合わなさすぎる。
今現在頭に浮かんでいるのは部屋の隅でしゃがみ込む高杉だ。
のの字を地面に書きながらブツブツと何か呟いている。
あれ、なんだろうこの既視感。
そんなことを考えていたら牢獄の戸がギイィと嫌な音をたてて開いた。