捧げ物

□どうか君に
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戦場にほど近い廃寺に現在銀時達は滞在していた。
寂れたそこはいつも静まり返っているが、今日はそうでは無かった。
一戦を終え、負傷した部下を抱え帰還した桂は、いつも以上に慌しい拠点の様子に眉をひそめた。
だがひとまずは部下を医務室に運ばねばなるまい。
しっかりしろ、と声を掛けながら草履を脱いでいると、酷く焦っているらしい高杉が姿を見せた。

「どうした高杉、何かあったのか?」

「何も聞いて無ェのか!?…今は説明してる時間も惜しいんだよ、さっさと医務室来い!」

舌打ちを一つ残して高杉が走り去る。
ああも高杉が急いでいるということは余程のことがあったらしい。
部下を抱えたまま急いで医務室へと向かうと、部屋から坂本の怒鳴り声が聞こえた。
あの坂本がここまで激昂するとは一体何が。

「はよう替えの布持ってきい!止血せんとこのままじゃあ…銀時!しっかりせい!」

銀時、と。
まさかと思い部屋に駆け込むと、背中から大量の血を流す銀時が布団の上に横たわっていた。

「銀時!?何があった高杉!」

「この馬鹿また部下庇って斬られやがったらしい」

「この馬鹿者めが…!無茶をするなと何度言わせれば気が済むのだ此奴は!」

「説教は後じゃ、とにかく今は止血が最優先じゃろう!ボサッとしとらんでヅラも動かんか!」

未だ溢れ出る鮮血を布の切れ端で押さえ込みながら坂本が怒鳴る。
その声に桂は部下を他の者に預けると医療器具を取りに走った。
まばらに置かれたその中から数点をひったくり、急いで銀時の元へと戻る。
高杉と坂本の二人がかりでの応急処置で出てくる血はいくらか治まったようだったが、まだ安心するには早すぎる。

「銀時、銀時!」

「…っ、うっせぇ、傷に響くだろーが…」

覇気の無いその声に、どうやら意識はあるらしいことを確認する。
だが、この状態ならむしろ意識を失っていた方が彼にとっては良かったかもしれないと桂は眉を寄せた。

「今から縫合をするが…知っての通り麻酔は無い」

「このまま縫おうってのか?いくらコイツでも、耐えられる訳…」

「そうぜよ、何か他に方法が、」

「残念だが無い」

目を見ないまま桂が二人にそう告げると、高杉はクソ、と悪態をつきながら近くの壁に拳をぶつけた。
坂本も眉間に皺を寄せている。
桂とて、どうにかしてやりたいのは山々だが、どうしようもないのだ。
脂汗をかきながらもそれを見ていた銀時は何を思ったかへらりと笑ってみせた。

「そんぐれぇ耐えてやらぁ…さっさとやれよ、ヅラ」

「…本当にいいのか」

「やらなきゃ死ぬんだろ?」

まだ死ぬ訳にはいかねぇんだよ。
睨みつけてくるような強い眼差し。
それに三人は折れた。
































お前らは外に出ていろ、と桂によって部屋の外へ放り出された高杉と坂本。
だからといって、はいそうですか、と部屋を離れることができる程薄情では無い。
部屋と廊下を隔てる襖の前にどっかり座り込んだ二人は、何を話すことも無く処置が終わるのを待ちつづけていた。
他の負傷者の怪我は粗方処置を終えたらしく、部屋の中に残っているのは桂と銀時の二人だけだ。
時折聞こえる痛々しい声に耳を塞いでしまいたくなる。


「本当に、自分を大切にせん奴じゃな…銀時は」

「…ガキの頃からな」

「頼ってもらえんのは、辛いじゃろ」

「お前がそう感じてるんだったら、そうだろうよ」


天井を睨みつけたままそう返した高杉。
坂本はそれを見て何とも言えない気分になる。

まだ付き合いの長いとはいいがたい自分でさえ、何故頼らないのだ、どうしてそんなにも無茶をするのだと、どこにぶつけていいのか分からない感情がぐるぐると腹の底で渦巻いている。
きっと隣にいるこの男は、どうすることもできない感情を何度となく経験したのだろう。

それを昇華させる術を見出せないまま、幾度と無く。


この男がそれを身につけてしまう前に、彼が人を頼ることを覚えてくれたら。

そう切に願った。


どうか君に

頼られたいと望むのは、きっと自分だけでは無いだろうに。




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