捧げ物

□騙し騙され
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2014沖誕




夏も近づき日に日に暑くなっていく今日この頃。
蝉も鳴き始め、まさに初夏といったところか。


だがしかし、今この場所においてはそんな暑さも関係無い訳で。
そんなことを考えながら向かい合った男を見たら、知らぬ内にため息をついていたようだった。


「人の顔見てため息つかないでくれるかな沖田君」

「おっとそいつは失礼しやした、つい」

「ついってなに!?俺の顔がそんなに変だって言いたいのかコノヤロー」

「誰もんなこと言ってやせん」

「…まぁそんな事は置いといてだよ?なんなのこの状況」

「見た通りでさぁ」

「いや俺が聞きたいのは何でこんな状況になってるかなんだけど」

ジト目で見てくる旦那になんででしょうねぇなどと惚けてみれば心底嫌そうに顔を顰められた。
まあこの状況じゃそうなって当たり前だろうが。
机を挟んだ向こう側の椅子にグルグルと縄で縛り付けられ、その腕は後ろで拘束されている。
されているも何も自分がやったんだけれども。
そして今現在俺と旦那がいるのは何を隠そう取調室。
オブラートに包み隠さず言ってしまえば拷問部屋。
そりゃあ何も知らされずこんなとこに連れてこられたんじゃ堪ったもんじゃ無いだろう。
だが、仕事の都合上帰せと言われたからといって、はいそうですかと帰らせる訳にもいかないのである。


「まあまあ、一つ二つ質問に答えてくれりゃすぐ帰れるんで少しぐらい付き合ってくだせぇよ」

「結野アナのブラック星座占い見逃しちまうんだけど」

「ああ、さっき見やした。天秤座は最下位でさぁ」

「……ほんとに当たるよねあの占い」

「結果も分かったとこですしそろそろ本題に入りやすよ旦那」


いまだぶーぶーと文句を垂れる旦那を無視して手元の書類に目を通す。
先日起こったターミナル爆破未遂事件。
少数精鋭の攘夷浪士共が地球の玄関口たるターミナルを破壊せんとし、それを止めようとした真選組と衝突した。
ここまではまぁよくある話なのだが。
無事攘夷浪士を一人残らず捕縛、取調べととんとん拍子に進んでいった。
しかしここで面倒なことになった。
首謀者の男が取調べ中に一つの名を…白夜叉の名を口にした。
あの方は必ずや再び立ち上がる、我らの行動は無駄では無い。
そう語る男の目は憧憬の意で満ちていた。
今回の事件に白夜叉こと、坂田銀時が関与している証拠は一つも見つからなかったものの、万が一のことを考えてと、今回の取調べを命じられた訳である。
本来なら土方が担当するはずだったそれを近藤さんに頼み自分に回して貰ったのは別に土方の仕事を減らしてやろうなんて考えた訳では無く、単なる興味。
書類から目を上げて旦那を見ると、飽きたのか不貞腐れたのか、椅子を前後にぐらぐらと揺らしながら次々と不満を漏らしていた。

「そんなことしてると倒れますぜ」

「でーじょーぶだって、だって銀さんだし」

「どんな理屈ですかそれ」

「それより腹減ったわー沖田くんさぁ、取調べなんだからカツ丼とか無ぇのー?」

「出してもいいですけどアレ自腹ですぜ」

「そこは沖田くんのポケットマネーでさー」

言いながらゆらゆらゆらゆら。
よくもまぁ両手を縛られた状態でそんなにバランスが取れるもんだなと思いながら見ていると、素晴らしいタイミングで旦那の腹の虫が鳴く。

「そんなに言うなら持ってきてやってもいいですけど」

「まじで!?」

「土方さんにカツ丼一丁って伝えときやす」

「それカツ丼じゃなくて犬のエサになるじゃ無ぇか!」

そう叫んだ時にぐらりと旦那の体が傾いた。
あ、と重なった音とともに目の前でゆっくりと椅子が後ろに傾いていき、そのまま倒れた。
がしゃーんと大きく響いた音。
近くに置かれていた空の水瓶が旦那の道連れにされたらしい。
後で土方に何を言われることやら。

「あーあ言わんこっちゃない」

「沖田くんヘルプ」

破片の中に倒れている旦那を見下ろしながら頭の隅で、攘夷浪士共は一体この男のどこに畏敬の念を抱くのだろうかと考える。
自分が知る坂田銀時は、一本筋の通る男であり、確かに良いなと思う所はある。
剣の腕だとか、話が合うところだとか、いろいろと上げられる。
だが、それが憧憬やら崇拝やらに繋がるかと問われればそれは無いだろうと答えられる。
自分が知る坂田銀時と、攘夷浪士共が知る坂田銀時。
その間に違いがあるのだろうか。
これだからこの人に対する興味は尽きることを知らない。
苦笑しながら旦那を椅子ごと起こしてやり、自分も再び席についた。
これで漸くお仕事の時間だ。


さあ、俺の知らない坂田銀時を引き摺りだしてみましょうか。





 
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