シリーズ

□ひさしぶり。
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2012高誕






ジリジリと焼き付ける日差しが左目に痛みをもたらしているような気がして、思わず舌打ちを漏らした。
五月蝿く鳴く蝉の声が鬱陶しい。

先程まで居た病院の涼しさとの差で、余計暑く感じる。
貰ったばかりの薬を適当に鞄へ突っ込んで歩きだす。


基本的に病院は嫌いだ。
消毒液の臭いだとか、蛍光灯の明るさだとか。
今日だって来たくは無かったが、そうも言っていられない事態。
こんな事態にしてくれた奴等の顔を思い出して、更に気分が悪くなる。
また痛みだした場所に手をやって、思わず溜め息がでた。

本当、なんで俺が。












学校からの帰りに柄の悪い奴とぶつかった。
その時には面倒臭ェ事になりそうだ、位にしか思わなかった。
だが思ったよりも事態は深刻だったようで。

絡まれたからのしてやったのがマズかった。
まぁそれなりにヤバい奴等だったらしく、サバイバルナイフを向けられた。
なんだってそんなモン持ち歩いてやがんだ、あんたらヤのつく自由業か何かか、と思ってたら本当にそうだった。

その日の朝占いで「今日は予感が的中する日!」という事で一位だったが、こんな予感は的中しないで欲しかった。本当に。

で、脅すだけのつもりだったらしいが、運悪く俺の左目に命中。
そいつらは逃げていったと。


こんな風に話しているが勿論めちゃくちゃ痛かった。
自力で救急車など呼べる筈など無く、倒れていたら、通りかかった高校生が救急車を呼んでくれた………らしい。



最後のは病院で聞いただけだ。
そいつが通りかからなかったら死んでたかもということを聞かされた。

という訳で俺は今その命の恩人とやらに御礼しに向かう途中だ。





というのが建前で、ただ単にそんな殺人現場みたいな光景を目撃して警察ではなく救急車を呼んだ、ある意味肝が据わっている高校生に会ってみたいだけだったりする。

しかし手ぶらで向かうのも如何なものかと考え直し、近くにあったケーキ屋へと寄った。
一応建前としては御礼な訳だし。
まぁ、一番安いのでいいだろうとショーケースを覗き込んで、目を見開いた。

左目の無い自分の顔を、初めて見た。
頭の半分程が包帯でグルグル巻きにされている。
術後に面倒臭がって見なかった自分の姿。




初めて見た筈なのに、見慣れた自分の姿だった。



何故だろうか。
それに、思っていたよりも遥かにショックが小さかった。
それどころか、ずっと前から、こうだったような。
ずっと前とはどれくらい前だったか。
俺が、この顔を見たのは初めてじゃない。
俺は、



「あの……お客様、どうかなされましたか?」



ふと周りを見れば、困惑しているような店員が。

「あ……何でもない、です…」


張り付いたように動かなかった喉を必死で動かしてそれだけ告げれば、未だ困り顔の店員がホッと溜め息をついた。


「随分とそこに居られたので…」

「そんなに、ですか?」

「はい、十分程…」


たかだか数秒だと思っていた時間が、そんなにも経っていた事に、更に俺の頭は混乱した。
見た事も無い筈の、見慣れた自分の顔。
グルグルと思考が巡る。

しかし店員の不審そうな視線を受け、意識を戻した。


「…あ、すいません、考え事してたみたいで。これ2つお願いします……」


はぁ、と不思議そうにこちらを見ながらも店員は作業に移った。

未だにグルグルと巡る思考回路に見ないフリをして代金を支払う。
告げられた代金は思っていたよりも高額。
勢いでコレをと指差した物はそれなりにいいお値段だったようで、財布はとても軽量化された。
思いもしなかった出費も痛いが、それよりも先程のアレの方が気になった。

アレは一体何だったのか。
全く分からない。
しかしアレが起きてから、ずっと続いていた左目の痛みがパタリと止んだ。
それまで存在を示すかのように鈍い痛みが続いていたのに。
まるでアレが起こるのを待っていたかのような。


まさか、と自分の考えた事に呆れた。
きっと何かの偶然だ。





半ば自分に言い聞かせるようにして区切りをつけた。
しかし途端に左目が痛みだす。
なんなんだ一体。
大きな舌打ちを一つ漏らし、歩くスピードを上げる。
早く帰りたいがそうもいかない。
早く、用事を済ませよう。






頭が、痛い。
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