シリーズ

□変わらないもの
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これの次の日のお話。




今まで長いこと抱えてきた苦悩が涙と一緒に溶けていったのが昨日。

「金時ぃー!昼飯ば食い行くぜよー!」

「言っとくが断るなんて選択肢は無ェからな」

「さっさと行くぞ、銀時」

そして馬鹿共の行動に悩まされるようになったのも昨日だ。
突然の上級生の訪問にざわつく室内。
そりゃあそうだろう。
前日クラスメイトを拉致した奴がまた来たんだから。
盛大にため息をつくと、行くのか?などと聞いてくる周囲に適当に返事をして弁当を持った。

呑気に笑う坂本の頭を軽く叩くと後ろからどよめきが。
そういえばこいつ三年か。
流石に彼らの前で上級生に手を出すのはまずかったか。

「アハハハ、大人しく待っちょったのに酷いのう」

「直で行くから教室来んなつったろうが!」

まぁ、本人が気にしてないからいいか。























所変わって昨日の屋上。
風が冷たくなったこの季節では、此処に来る生徒は少ない。
だからこそ此処を選んだんだろうけども。
包みを広げて弁当から唐揚げを一つつまみ、口に放り込む。
が、なんだか隣から視線を感じる。
顔を横に向けると弁当箱の中身をガン見する桂がいた。

「……何してんの」

「…唐揚げでも卵焼きでもいいから一つくれ」

「じゃあいちご牛乳買ってこい」

「後で買ってやる」

「…しゃあねぇな」

ほれ、と弁当箱を差し出すと唐揚げの一番でかいのをさらっていった。
ぱくりとそれを食べると無言で咀嚼。
ごくりと聞こえるくらいの音で飲み込むと、妙にキラキラとした目で俺を見てきた。

「相変わらずうまい」

「…そりゃどーも」

「金時、そりゃ自分で作ったがか?」

「なんか文句あるかよ」

「いやぁ、高校生男子の弁当にしては
家庭的なモンばっか詰まっとるなぁと」

「安くあがるからな」

「…ジリ貧生活してきただけの事はあるな」


桂が妙に生暖かい目を向けながら言ってくる。
それになんだかイラッとしつつも箸を持つと、弁当箱に隙間が増えているのに気づいた。
メインディッシュ、唐揚げが一つもなくなっている。
三つ入れてきたはずだった。
つまり。

「相変わらず味付けが薄いな、旨ェけど」

「高杉ィィィィィィ!!テメェ俺の大事な食料を!」

「もうちっと味付け濃くしろよ」

「テメェの舌がイカれてるだけだろボンボンが!それに誰が食っていいっつったよ!?」

「お前の物は俺のものだ」

「こんなとこでジャイアニズム発揮すんじゃねぇ!」

「じゃあわしもなんかもらうかの」

「卵焼きも寄越せ」

「俺の昼飯なくなるっつの!」

引き下がる坂本を振り払い、漸く自分の昼食にありつく。
高杉と坂本が不服そうな顔をしているが一番不服なのは俺だ。
昼飯食べるだけでなんでこんな疲れるんだと聞きたくなる。

文句を言いつつもカレーパンを食べていた高杉がふと思いついたように俺に顔を向けてくる。

「そういや昨日結局先生んとこ行けなかったな」

「お前らのせいでな」

「まぁそう怒るな銀時、俺達とて悪気があってやった訳ではないのも知っているだろう」

突然呼び出されたことによりHRどころか全授業をサボった為呼び出しを食らった。
ただのサボリならまだ良かったが、生憎クラスメイト全員が坂本に引きずられていく俺を見ていた訳で。
四人共教師達にしっかり事情聴取された挙句、解放されたのは時計の針が八時を過ぎてからだった。
流石にその後家に押しかけられるのはまずい、という訳で、結局先生とは会わせていない。

「銀時、今日の放課後空けとけよ」

「俺達とて先生に会いたいからな」

「いいけどよ……記憶あるっつってもほんの少しだぞ?」

お前らのこと覚えてるかも危ういくらいだし、と続けると二人共複雑そうな顔は見せたが、やはり会いたいという気持ちが勝ったらしい。

「それじゃあわしも行こうかの」

「なんでテメェまで来んだよ」

「ええじゃろ、わしもおんしらの先生を一目見てみたいき」

「まぁいいけどよ…」

なんとなくこの馬鹿とあの先生を会わせたらまずいというか、おかしな化学変化を起こしそうな気がする。
先生もあれでいて天然だから、なんとなくそんな気がしてならない。
そう思いながら口に放り込んだ卵焼きは甘かった。
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