シリーズ

□学生の宿命
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15。
その二つの数字を見て、ぐしゃりと紙を握りつぶした。
俺は何も見なかった。見ていない。
きっと疲れているんだ俺は。
だから幻覚でも見たんだろう。


「高杉、どうだったんだ」

「どどどどうって何がだ」

「…焦り過ぎだ」


はぁ、と大きくため息をついてみせたヅラが非常にうっとうしい。
ぐっしゃぐしゃになった紙を目敏く見つけたヅラがそれに手を伸ばしてくる。
やめろ触るなこのロン毛!


「ロン毛じゃない桂だ」

「俺の心を読むな」

「口に出ていたぞ」


思わず口を抑える。
その時そっちに意識をやったのがまずかったのか、すかさず左手に掴んでいたそれを奪い取られた。
手癖が悪いぞテメェつか返せ。


「……15点か」

「うるせェな15点の何が悪い」

「悪いとは言わんが、今回の最低点は15らしいな」

「二人いたんだろきっと」

「一人らしいぞ」

「昔は現社なんて無かったんだよなんだよ現社って法律なんざ俺がぶっ壊してやらァ」

「はいはい中二乙」


超うぜぇんだけどこの電波。
しかもこれ見よがしに自分の答案をひらひらと見せてくるから尚腹が立つ。
…そう、テスト。
古典だのなんだのは問題無い。ノー勉上等。
問題なのはそれ以外だった。


「お前数学も残念だっただろう」

「残念とか言うんじゃ無ェよ27点に謝れ」

「今回平均85だったんだがな」

「平均に囚われる男じゃ無いんだよ俺は」

「へーほーふーん」

「…なんだよ」

「じゃあ銀時に見せにいくか」

「やめ、それは止めろ馬鹿!」


威厳だとかなんだとかいろいろ無くなるだろうが!
頭の隅で銀時が元からねーよとか言ってる気がするが無視だ無視。
止めようとするものの今俺の答案を持っているのはヅラ。
手を伸ばして取ろうとするも易々と避けられ、ヅラが廊下へと出て行く。
これはまずい。
なんとしてでも止めねばならない。
幸運なことに今はもう放課後。
うまく行けば銀時は既に帰ってるかもしれない。


「これをネタにサ◯ゼで三人で盛り上がるとするか!」

「やめろハゲ!」

「ハゲじゃない鬘…じゃない桂だ!」


そうだった。
放課後はカラオケからの◯イゼの予定だった。
そうとなったらもう逃す訳にはいかない。
息の根止めてでもコイツを止める。
そう決めた。


「ふははははこの逃げの小太郎を捕まえられると思うかこのぶぅぁあかめェ!」

「くっそ超うぜえハゲろまじハゲろ!」

「俺のさらさらキューティクルを舐めるでないわ!俺がそう易々とハゲる訳無かろう!」

「………何してんのお前ら」


………最悪だ。
散々言い合っている内に銀時の教室まで着いていたらしい。
冷やかな目を向けてくる銀時に思わず二人揃って目を逸らした。
視線が痛い。


「まぁいいや、てめーらさっさと行くぞー」

「おう」

「ちょっと待て銀時」

「あ?」

なんで止めるんだヅラァァ!
このまま行けば良かったものを!


「これ」

「なにこれ?テスト?」

「高杉のだ」


ぐしゃぐしゃになった紙に目を落とした銀時の表情が一瞬で固まった。


「…高杉君」

「…なんだ」

「どうしちゃったのこれ」

「………知らねぇ」

「テスト前全く勉強してなかったからな」


二人に哀れむような視線を向けられた。
そういうテメェはどうなんだ銀時テメェ散々そんなことしといて自分のは見せないとか許さねェぞコラ。


「お前はどうだったんだ?」

「俺?ほい」


丁度同じように返却されたばかりだったらしい銀時が答案を渡してくる。
ヅラが受け取ったそれを横から見て、ぴしりと固まった。

「き、」

「き?」

「きゅ、きゅきゅ、きゅう、」

「なんだよ河童かよキュウリ欲しいのかお前ら」

「きゅうじゅう…!」


嘘だろ。俺は信じない。
あの銀時が!90!


「お前どんなカンニングしたんだ」

「してねぇよ馬鹿にすんな」

「昔は居眠りばかりして授業など聞いていなかったお前が…ううっ、お兄ちゃんは嬉しいぞ!」


うわぁ、とヅラを見て顔を引き攣らせた銀時。
面倒臭そうなヅラは放置して、銀時の肩に手を回す。


「どうやってこんな不正した?俺達の仲だろ教えろや」

「だからしてねーって、つかどんな仲だ」

「お前がこんな点取るのなんて奇跡だろ」

「毎回父さ…先生が教えてくれんだよ」


そりゃあこんな点が取れる訳だ。
先生の教え方以上にうまい教師なんざ見たことは無い。
尚且つマンツーマン、ましてや溺愛してやまない愛息子相手なら先生は一時間でも二時間でも懇切丁寧に教えるだろう。


「クソ…なんつー羨ましい…」

「俺の特権だしぃ?いいだろ羨ましいだろ」

「…正直な」

「晋ちゃんがどうしてもっていうなら俺が教えてあげてもいいけど」

「ふざけんな誰がテメーなんざに」

「銀時、俺は頼む」

「はいよ、一回につきパフェ一個な」


テメェにはプライドってもんは無ェのかヅラァァァァァ!!


「うだうだ言ってないで教えて貰え、万年赤点ちんけなプライドなんて燃えないゴミの日に捨ててしまえ」

「燃えるゴミじゃないのな」

「高杉のはなんか燃やしたら有害物質出そうだからな」

「くっそ腹立つ」

「しゃあねぇなぁ、俺じゃなくて先生に教えて貰えばいいだろ」

「いいのか」

「せんせーに聞いてみれば?多分いいって言うと思うけど」


棚からぼた餅。
先生さえいればテストなどスライム以下の雑魚。
これで次は赤点回避だざまァみろヅラ!











この時俺は先生が恐ろしくスパルタであることを綺麗さっぱり跡形もなく忘れていたのだった。

(…晋助)
(……はい)
(一から全部みっっっっちり教えなきゃですね)


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