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□「 」 その言葉の意味
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「俺に殺されるのは、厭ではなかったのか? 殺せ、殺せ、殺せ…お前は一体何度、俺に向かってそう言った?」
舌を噛み切ったところで、容易には死ねない。
この男は、そのことに気づいているのだろうか。
じわりじわりと忍び寄る死を待ち続ける間、その苦痛に耐えられるというのか。
否、忍び寄る死を待つ苦痛を選ぶほど、他者に殺されることを嫌悪しているのか。
真意はわからない。
「…ィ」
小さく声が聞こえ、ふと思考の海の中から浮上した。
困惑に揺れる碧色の瞳が、こちらを見上げている。
どうやら、彼を苛んでいた手が止まっていたらしい。
ふん、と鼻で笑って指を胎内から引き抜いた。
そのまま男から離れる。
中途半端に放り出されて、男はただ呆然としている。
そんな彼を振り返ることをせず、浴室へと入った。
濡れた手を洗い清めて部屋に戻ると、ベッドの上に身体を起こした男がこちらを見ていた。
ちらりと横目で男を見て、そのまま踵を返した。
立てかけてあった愛刀を手に取り、部屋を出て行く。
重々しい金属音とともに、扉が閉まる。
鉄製のそれを背にして、しばらくその場に立ち尽くした。
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