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□空想い人
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失われていく様を、今も鮮明に思い出す。
人の心とは、このように壊れていくのだと…
あの荒廃した街で虐げられていた自分は、まだどん底ではなかったのだと思い知った。
パタ、と布地の上に水が落ちる音がした。
雨かと思ったそれは、自分が流した涙だった。
「あんたと一緒に生きたいって…わかったときには、もう遅かったなんて…」
伝えないまま、声は届かなくなってしまった。
でも、きっと届いているはずだと信じて声を掛け続ける。
あの時言えなかった言葉も、今ならはっきりと言える。
「あんたが欲しいんだ…今すぐ…ッ」
がくりと膝を折り、地面に座り込む。
車椅子に座り、人形のようになってしまったシキの足に縋りつく。
「!」
ねっとりと忍び寄る夜の気配の中に、感じ慣れたそれが混じる。
(刺客か…)
嘆いている暇などない。
生きるために、殺さなければならない。
冤罪を晴らすために潜りこんだ街。
そこで出会った、己の主。
そして、今、償い切れないほどの罪を重ねながら生きている。
冤罪は現実に確定された罪となり、この身も十分にお尋ね者のそれになっていた。
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