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□泡沫の記憶 1
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己が所有物と決めたこの男が、何処までついてくるのか。
それを例え知ることができなくなったとしても、もし自分が生きていたならばきっと彼は自分の側に居るはずだ。
そして、それこそが、己が求めた究極の所有の証なのかもしれない。
試そうなどとは、最早思わなかった。
そう考えるまでもなく、己は壊れていく。
何にそんなに焦がれていたのか、何故強さを求めたのか、何を楽しんでいたのか、何が自分を支えていたのか。
その一切が、突然わからなくなった。
すなわち、自分の存在意義そのものを見失ってしまった。
だから、今自分が手を引いて歩いているこの男を所有するという理由さえもわからない。
この男の名前は、何だっただろうか…。
****
戦時下の混乱に紛れ、放浪の身となった。
にも関わらず、己の身の上を知るかつての敵が何処からともなく現れ、この命を狙う。
この湧きあがる無力感から解放されるなら、無様に殺されるのもいいかもしれない。
そうふと思って、刀を構えずに相手が凶器を振りかざす様を眺めた。
「シキ…ッ!」
刃を弾く硬質の音。
「なにしてんだッ! 殺されたいのか!」
(殺され、たい?)
そう思ったのだろうか。
断末魔の声と、肉体が地面に倒れ伏す音に顔を上げた。
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