プレビュー画面表示中

共犯者[5]


「高杉、後で準備室来いよ」

校内で高杉を目の前にしても、銀八が教師の仮面を外したことはない。
プライベートな雰囲気など微塵も感じさせない、完璧な役者だった。
わざわざ苗字で呼ぶのも、わざとらしくない。
そもそも担任ではないし、顔を合わすのは古典の授業くらい。
向こうから声をかけてくること自体が珍しかった。

それが何故と、意識してしまうのは高杉のほうだった。
だがいくらなんでも手を出してくることはないだろう。きっと成績の話かも、などという甘い考えは、見事に裏切られる形となる。

「失礼します」と、銀八にそんな言葉をかけるのが変な気もしたが、これは礼儀だ。
まず目にしたのは、机に向かって書きものをしている、白衣を着た銀八の背中だった。
ああ、あんな男でも立派に仕事しているのだな、などと感心してしまう。

「入っていいぞ」
「はい…」

こちらに隙を与えない、機械的な声。
とても馴れ馴れしく話しかけられる状況ではない。

「鍵閉めとけ」
「え、あ…」

気後れしながらも言うとおりにした。
ロック音を聞いたからか、銀八はそれが合図のように静かに立ち上がる。

「こっちに来いよ」
「………」

振り返るなり、彼は眼鏡を外した。仕事は終わった、とでも言うように。
惹きこまれるように近づく。
手の届く範囲のところで、腕を掴まれた。
あっ、と声だけあがったが、呆気にとられたまま、背中を壁に押し付けられる。

「銀、八…?」

眼前の男はもはや一教師ではなく、銀八だった。
睨んでいる風でもなく、ただこちらを見据えているその表情からは何も読み取れない。

「ぎ、銀…っ?」

不意に二の手が伸びてきたかと思えば、彼は高杉の制服のボタンを外し始めた。

「っ…ここ、で…?」
「抵抗すんじゃねえよ」

ぴしゃりと言われると、この部屋で脱がされることに羞恥心を覚えながらも、
銀八と事が始まると、頭で抵抗しても身体のほうに力が入らない。

「っ…銀八、どうして…っ」
「抱きてえからに決まってんだろ」

抱きたい、などと言われたらもうダメだった。シャツが肩から滑り落ちる。
銀八の手が、制服のズボンの中に忍び込み、硬くなり始めた高杉の一物を、直接揉みしだく。

「っだめ…っ、そんなに…っ」
「安心しろ、イカせる時はちゃんとぶち込んでやっから」

その時を想像しただけで、総身が奮い立ち、身体を捩りながらの小さな抵抗も消え失せる。

「授業、は…?」
「あったら呼びだすかよ」
「そっか…んっ」

上も下も全てさらされると、銀八の手が胸を撫でまわしてくる。
銀髪がばさっと鎖骨のあたりにかかって、ちくちくと痛い。
その時すでに、銀八の舌が高杉の乳首を蹂躙していた。

「あぁう…っ」

ぬるりとした感触が気持ちイイ、と思えてしまう。
学校でいきなり行為を迫られたのが初めてで、頭はぐるぐるするばかりだったが、この男に抱かれたいという欲求のほうが強まり、そのうちどうでもよくなった。

「んあっ…」

指で中を犯される。
相変わらず荒っぽく引っ掻いてきて、時には苦痛もともなったが、心なしか、
いつになく丁寧に愛撫してくれている気がした。
それに安堵し気を許すと、全身が歓喜の波に呑みこまれ、恥ずかしがいもなく甘ったるい声をあげていく。

「ふぁ…あぁぁん…っ、はぁん…」
「はっ、ナカ洪水になってんぞ」
「ん…んんぅっ…、ぁあ…あ、あ、ぁあんっ、も…」
「…立ってらんねえ、てか?」

銀八の心地よい低音が聴覚をくすぐる。涙を浮かべながら、頷く。
それに満足した笑みを浮かべると、銀八は数歩さがり、白衣を脱いだ。
透明感のある白は一瞬空中を泳ぎ、床に落ちた。
生き物のようにぐったりと、それは大の字になって倒れていた。

「そこに四つん這いになれよ」
「え…?」
「もっとヨクしてやる」

慈悲を感じさせる表情で言われ、高杉は困惑した。
床に白衣を投げたのは、高杉の身体を気遣ってのことだ。
今までこんなことをするような男ではなかったのに。

シーツのような感触の上で、高杉は膝をつき、手をついた。
余韻の息をひとつこぼし、黙って銀八の行動を待つ。

「は…さすがに、綺麗な身体してんな」

自分の影に銀八の影が覆いかぶさったのを見る。
背中をすっと撫でられ、それだけで感じてしまう。全身が性感帯と化したようだ。

「食い甲斐がある…」

彼の唇が背骨を這っている。時には舌で味わわれる。
たまらず吐息が漏れると、「感じるか?」と耳元で囁かれ、頭が痺れる。

「もっと足開けよ」
「銀…?」
「ココの味は御無沙汰だからな」

何の事だか理解できなかったが、取りあえず言うとおりにした。
髪の毛の感触を高杉は挿入部の周囲に感じ取る。
彼の行為を確かめようとぎりぎりまで首を傾けた。
瞬間、ねっとりとソコを掃きあげられた。

「あぁっ…銀、ぱち…そん、な…あっ、ぁあっ」

中を舌が泳いでいる。穴を舐められ、舌を挿し入れられる恥辱行為に、高杉は逆上状態になる。
憚りなく嬌声をとどろかせる彼に、銀八もまた昂ぶりを抑えるのに精いっぱいだった。

「ちったあ声抑えろよ。聞こえちまうかもしんねえぞ」

なおも舌はぴちゃぴちゃと音を立てて、激しく高杉を責め立てる。

「ひゃぁんっ、っや、っぁあんんっ!」
「そんなにイイのか?ケツの穴舐められんのが、ん?」

嘲笑をふっかけながら吸い立てる彼に、「もっと」と思わずせがんでしまう。

「じゃあこうしてやろうか?」

敏感な肉の実に歯を立てられる。
高杉は狂おしいほどに声を張り上げ、細腰をおびただしく痙攣させた。

ああ、もう挿れてほしい。
高杉の頭の中は、その欲求でいっぱいになった。

「銀…八……」
「ん?」
「も……ほし……」
「何、聞こえねえよ」

恐らく彼には聞こえている。はっきりと、この内なる叫喚が。
それでも焦らすと言うのなら、必死にすがってみせよう。
もはや淫乱だと蔑まれようが、卑しいと思われようが構わない。


「欲しいよっ、銀八ィっ!」
「………」


きっと哀れで、愚かで、汚れた小動物、否それ以下に銀八の目には映っているかもしれない。

「そんなに欲しいか?」

本当は、酷くされることを望んでいるわけじゃない。
今までだって、何度この男に本気で殺意を覚えたことか。
殺してやる、殺してやる、と心の中で泣き叫んだことか。
それでも、

「欲しい…っ早く、挿れて…っ!」

その声を、その熱を、心の髄まで突きたててくる。
それを愛情と錯覚して、
自分はこの男のそばにいたんだ。

「欲しけりゃ、こいつをまず銜えな。てめえのせいでビンビンなんだよ」

愛することだって、出来てしまうのだ。

高杉は赤ん坊のようにぎこちなく四足で歩き、銀八に向き直る。
銀八が高杉の前髪を掻き分け、汗ばんだ額から顎にかけて隆々と勃起したものを押し付ける。
水中を泳いでいる時のように、目に映るものすべてが歪な形をしている。
それでも高杉は、大口をあけてそれにしゃぶりついた。

「んっ、ん、ん」
「そうだ…晋助」

銀八はその舌技に満足している。
高杉の奉仕は勢いづき、銀八を追い詰めていく。
苦悶の声と、それを吸う音と。今ここに聞こえるのは、汚らわしい音ばかり。
その環境から逃れたくないと願う、醜猥な自分がいる。

「もういい、仰向けになって足開け」

必死で食らいついていたものを無理やり引き抜かれる。
唾液が毀れるのも気に留めず、高杉は真っ白くみずみずしい肢体を地に投げだし、おしめを変えられる時の格好をした。
愛撫が中断されても、そこはひくひくと痙攣し、うるみにまみれていた。

その淫らな様に目を奪われた銀八は、獲物を前にした猛獣の衝動に似たものを覚え、
高杉の二の足に爪を立てて鷲掴みし、挿り口を突きださせる。
一気に腰を埋めた。

「ああぁ?!あ″っ、アッ、アッ、アッ、!だめ!どうにかなっちゃうぅぅ!」

間をおくことなくズズズとリズムを刻んだドリルに腸が突き破られるような衝動に、涙がどっと溢れ、
口からはとめどなく断末魔に近い、悦の悲鳴があがる。

「頭トんじまいそうだろっ?っ、火の海みてえになってんぜ、てめえん、中っ」

銀八も精液を丸ごと絞り取られそうな快感に眩暈を起こし、歯を食いしばることによって、この場に意識を繋ぎとめる。
雄たけびにも似た声をあげ続ける高杉の灼熱孔をなおも激しく貫いて、その度に彼と同じ極楽を見、たまらず呻き声を漏らす。

「アンッ、アッ、アッ、溶けそうっ、もうイク!イっちゃうよぉぉ!銀八―――っ」
「はっ、イけよ!ああっ俺も…俺も、イっちまうっ!」

獰猛な突き穿ちでぶつかりあう肌の音と、ひっきりなしにあげられる耳を劈きそうな声。
誰にこの営みを聞かれようが、そんなことは思考の外だ。
これでもかという狂おしい快楽の中で、ひしと抱き締め合い、互いに醜い欲を吐き出していった。
















「おっせえなぁ…」

丁度空き時間の沖田と近藤は、図書室で電子辞書を片手に、問題集を解いていた。
ここでは筆談が義務付けられているが、ふっと時計を見た沖田が思わずといった様子でそう口にした。
どうかしたのか、と空気のような声で近藤が尋ねる。

「高杉でさぁ」
「え?」

その名前が出て、いささか動揺した。

「準備室に呼ばれたとかどうとかで…それにしても遅えなって。14時半には来るっつってたのに」
「準備室って?」
「坂田に呼ばれたっつってたから、国語準備室だろい」
「え、何でっ?!」
「知らねえよ。って声でかいですぜ」

指摘されて、はっと口を塞ぐ。図書室の先生に軽く睨まれていた。

「こりゃあ、おイタしちゃってるんじゃねえかな」

沖田はクスクスと、二人を応援している友人の笑みを浮かべた。
一方の近藤は二人の話を聞くだけでも、内心冷静でいられなかった。
その高杉と関係を持ったなど、口が裂けても言えない。
呼び出された理由は、まさかそれを見られたとか。そういった類のものではないか、と気が気でなかった。

「どうしたんでィ?」
「え?あ、いや…」
「………」

顔に出ていたのか、沖田が訝しげに見やってくる。
慌てて何でもないと目を反らしてしまったが、これは逆効果だった。

「まさかアンタ…」

沖田がいよいよ睨みを利かせてきた。しまった、沖田は元々勘が鋭い。

「先生のこと、好きなんじゃねえだろうな」
「あ?」

そっち?!すぐさま前言撤回した。

「いやいや、何で先生なんだよ。どういうアレで好きになんだよ俺が」
「だって妙に突っかかって来たから。もしやと思って」
「そのもしやはありねーから!…あ」

気づけば立ちあがって沖田の頭を叩いていた。
周囲の注目の的になるのは当然の成り行きだった。
今度こそ追い出されそうだ。

「俺もう出るわ…」
「え、何で」
「居づれえし」

これ以上沖田と会話を続けてはボロが出そうだ。
近藤は肩身の狭い思いで受け付けの前を通り過ぎ、図書室を出た。
テラスにつながる階段を降り終えると、溜息が出た。

「よ…」

少々ハスキーな声が自分にふりかかった。
はっと面をあげると、意外な人物だった。

「…よお」

反射的に顔を見たくない、と思って、側向いた。
彼から苦笑が漏れたのが分かる。

「声かけて悪かった…」

彼はそのまま近藤の肩を横切った。
酷く居た堪れない気持ちになる。裏切ったのはお前のほうなのに。

「トシ…」
「………」
「気にすんな…」

これが精いっぱいの、今の彼に送る最後の情の言葉だと思った。

「アンタとは、また笑いあえる仲になりてえな…」
「………」
「アンタが“許してくれたら”、だけどな」

近藤は振りかえる。

「お前…」
「アンタ、気づいてたんだろ?」

だから、別れようって、言ってきたんだろ?

「ああ…知ってた…」

土方からの告白には驚いたが、この瞬間お互い包み隠す必要はないと思った。
近藤のほうも、そちらの関係が終わったからといって、元々あった友人としてのつながりまで壊したくはなかった。

「そっか…隠し通せたと思ってたんだが」

弁解の一切をせず、そんなふうに罪をさらっとさらけ出せる潔さが、この男の長所でもあると思った。
羨ましかった。この男の中では何もかも整理できている。
何があっても自分のライフスタイルを貫くタイプだ。
自分は、どんどん引きずりこまれている気さえするのに。

「何となくは察してたが…」
「してたが?」

そろそろ自分の中では収まりがつかなくなりそうなこの事実を、共犯である高杉以外に、
誰と共有出来ようか。
すべてを吐き出したい衝動が、首を擡げ始める。

「実際のことは聞いたんだ、人に」
「…誰に?」

近藤の言い草に、土方は目を細める。
他人に話していいことなのかどうか、最後の最後まで自問自答した。
そして、


「高杉だ…」


恐る恐る土方の顔を伺った。
彼は、虚を突かれたように目を丸くした。

「知ってたのかよ…あいつ…」

それなら当然、相手のことも。
瞬間、土方は背筋が凍りつくような恐怖感に襲われ、思わず口を塞いだ。

「今朝、普通に笑って挨拶してきやがった…」
「え?」
「昨日も、一昨日も…その前の日もだ」

声が震えている。あまりの震えに、笑えてきてしまう。

「知ってたから、あいつは…」
「?」

歯止めとなるものが次々と崩されていく。
もういい。もう、自分が辛い。


「俺に、共犯になってくれと、言ってきた…」
「…それって…」


つまりは、そういうことだ。
緊迫感につぶされそうな喉から、やっとの思いで声を出す。

「俺も人のこたあ言えねえんだ…」
「アンタ、まさか…高杉と?」

そうだ。自分の弱さに押し流されたのだ、と近藤は頷く。
土方が顔色を失くす。

「何やってんだよ…」

土方のそれは、近藤の非を責めている声ではない。
それならお互い様だ、と笑ってすむ問題ではなかった。
その相手が、悪すぎる。

「先生にまさか、言ってねえよな…?」
「え?言って…ねえけど…」
「殺される」

どういうことだ、と即座に切り返した。

「あの男、とんでもねえぞ」















「銀八…そろそろ、戻らねえと…」
「………」
「次の授業、あるから…」

椅子に跨る銀八の膝上で、筋肉質な二の腕に包まれて、高杉は大人しくしていた。
服は床に散らばったままだ。

「いいだろ、そんなもん」

ぐっと、強く抱きしめられる。

「ここにいろよ…」
「………」

そう言われたら、留まるしか選択肢はなかった。
身体だけでなく、存在そのものを求めてくれているような気がして、それならばいつまでも側にいてやろうと思った。
それが自分の甘さだと、毎回裏切られるのだと分かっていながらも。

「なあ…」
「………」
「銀八は…」

高杉は言葉を止めた。
この男の沈黙が、それを許してくれないのだ。



愛してる?



答えが聞けないであろうその問いは、未だ闇に葬られたまま。





































エロを死ぬほど書きたかっただけ(ェ)
→トップへ


ブックマーク|教える




©フォレストページ