その他
□特別な貴方
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「本当に貴方は嫌な男デスね」
レインズワース家が主催をしたパーティーが終わり、自らの屋敷へと帰っていく貴族達を見ながら、ブレイクは唐突にそう言った。
「酷いな、帽子屋さん・・・・」
そんなこと言われたら傷ついちゃうよ?と態とらしく返す口は、いつもと変わらない薄い笑みを描いている。
その様子にブレイクは溜息を吐く。
「それにしても、帽子屋さんどうしたの・・・?さっきからずっと不機嫌じゃない」
「別に不機嫌じゃないですヨ」
すぐさまそう返せば、ヴィンセントはくすくすと笑いを零した。
本当にいけ好かない男だ。
「そう。でも、パーティーの最中ずっと僕のこと見てたし、浮かない顔してたから・・・・」
その言葉にブレイクは苦々しく顔を歪めた。
貴族達の間でヴィンセントの噂は数多くある。
まず、見た目が十二分に人の目を引く。
赤と金のオッドアイになめらかさを持つ金色の髪、そしてそれらに見合うだけの端正な顔立ち。
その容姿は性別問わずに人々を魅了する。
しかも、社交の場では愛想が良く物腰が柔らかい紳士を装っているため更に好感度を高める。
今日のパーティーも、ヴィンセントの周りには多くの人間が群れをなしていた。
それら全員を相手にしていたというのに、ヴィンセントはブレイクの些細な行動を把握していた。
その事を知ったブレイクはなんとか冷静を装い、あえて冷たい口調で言い放つ。
「使用人である私がお貴族様のパーティーで楽しめという方が無理な注文ですヨ」
「ふぅん?てっきり僕は、構ってあげなかったから帽子屋さん、拗ねたのかと思ったよ・・・・」
「そんなガキじゃあるまいし。それに貴方に構って貰いたいなんてこれっぽっちも思いませんよ」
ヴィンセントの言ったことは、実は図星だった。
誰にでも同じ笑顔を向けるヴィンセントを見ていると、自分が彼にとって特別なのか不安になってくる。
でも、そんなこと絶対に知られたくない。だから嘘を吐いた。
ふいにヴィンセントが顔を近づけてきた。
息が当たる距離に、不本意にもブレイクの心臓が高鳴った。
「帽子屋さんの嘘つき・・・・」
甘ったるい声が耳朶から全身に伝わり、まるで酔ったような感覚に襲われる。
それから逃れるようにブレイクはじりじりと後ずされば、それを追いかけるように追い詰められ背中が壁に当たった。
「僕のコトすっごく好きなクセに・・・。素直じゃないね・・・」
「・・・・貴方は自信過剰ですね」
「そういうつれないところも、」
「大好き・・・」
そう囁いた瞬間、ブレイクの顔が紅く染まる。
白い肌に赤が映えて綺麗だなぁ、とぼんやりと思いながら、ヴィンセントはブレイクに口づけた。
突然の事に、びくりとブレイクの身体が震え、強ばるのが分かった。
(可愛い・・・)
場所が場所だったため、ヴィンセントは名残惜しそうに口を離した。
先程よりも紅くなっているブレイクに、自然と口元が緩み笑みが零れる。
その様子に、ブレイクは恨めしそうにヴィンセントを睨んだ。
しかし、涙で潤んだ瞳で睨み付けられても怯むどころか、欲情しかしてこない。
「僕、そんなにキス上手かった・・・?」
「、、、最低ですねッ///」
もう一度、くすりと微笑みヴィンセントは手を振りながらその場を離れた。
「バイバイ、帽子屋さん・・・・」
ブレイクに別れの言葉告げ、ヴィンセントは屋敷を後にした。
ヴィンセントの影が見えなくなったのを確認し、ブレイクは上気した顔を隠すようにその場にへたり込む。
(あの男はタチが悪すぎる・・・)
ブレイクは煩すぎる心臓の音が鳴り止むまで、立ち上がることが出来なかった。
ー愛の言葉は、特別な貴方だけに。