デュラララ!!
□ハジメテのコトバ
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各教室から教師の声が聞こえてくるなか、平和島静雄は屋上で惰眠を貪っていた。
春の日差しが直に当たる屋上は適度に暖かく、必然的に眠気を誘う。
静雄は寝転がり微睡んでいると、突然起き上がり屋上の入り口にいる人物を睨んだ。
「何でテメェがここに居るんだよ、ノミ蟲。授業中だろ」
「こっちの台詞だよ。あーあ、シズちゃんが居るなんて。授業サボって屋上に来たの失敗だったなぁ」
あからさまにため息を吐いてみせる臨也に、静雄は苛立ちしか覚えない。
ここでぶっ飛ばしてやろうか、と思ったが今は授業中だ。他の生徒の勉学を邪魔するのはさすがに気が引ける。
そう思い静雄は自分の内に怒りを抑え、臨也を見ないように再び寝転がった。
「あっれぇ、シズちゃん珍し−。襲いかかってこないなんて」
そう言いながら臨也は軽い足取りで静雄に近づき、隣に座った。
その行動に静雄は怪訝そうに臨也を見た。
「何してんだよ」
「さっき言ったじゃん。サボりに来たって」
「だから何で俺の隣に来るんだよ」
「どこに行こうと俺の勝手でしょ」
静雄が臨也に口喧嘩で勝てるはずがない。
それは静雄も分かってるわけで、予想通り全て上手く躱される。
このまま話していても一生平行線を辿りそうなので、静雄は喋るのを止め口を噤んだ。
静雄が喋らなくなり臨也はつまらなさそうな顔をすると、何か思い出したように口を開いた。
「ねぇ、シズちゃんって誰かに好きって言われたことある?」
「はぁ!?」
臨也の予想外の質問に静雄は身体を起こし、臨也を凝視した。
(ついに花粉が頭に入っちまったのか、こいつ・・・)
静雄の反応の大袈裟ささがカンに障ったらしく、臨也は眉を顰め心外そうに言った。
「失礼な。俺だって高校生なんだよ?色恋沙汰に悩みを持ったって可笑しくないでしょ」
「まぁ、確かにそうだけど・・・」
臨也の言っていることは確かに可笑しくない。
高校生なんて殆どの人が青春を謳歌している真っ最中だし、その方向が恋愛に向くのは大いにあり得ることだ。
しかし、臨也がそういった台詞を吐くのは何故かとても違和感がある。
「シズちゃん、今すっごい失礼なこと考えてたでしょ」
サイコメトラーかこいつ!!
「ていうか、俺の質問答えてくれないの?」
臨也は逸れかかっていた話を元に戻す。
最初の質問を思い出した静雄は押し黙っていたが、しばらくしてぽつりと呟いた。
「・・・・ねぇよ」
「あ、やっぱり?」
臨也の嘲るような言い方に忘れかけていた先程の怒りが込み上げてくる。
「シズちゃんルックスは無駄に良いだけに、残念だよね」
褒めてるのか貶しているのか分からない臨也の台詞に、静雄は驚いたような目で見る。
「・・・・。それでテメェはどうなんだよ」
「俺?あるよ。無いわけないじゃん」
「・・・ふーん」
「ふーんって反応薄っ!さっきはあんな驚いてたクセに−」
ぶーぶーと文句を言う臨也に静雄は、鬱陶しげに言った。
「性格はともかく、見た目は俺でも格好いいと思うし、女子が騒ぐのは普通だろ。」
静雄にとっては何気ない言葉に、臨也は呆けたような顔をしている。
「?」
訝しげに顔を覗き込むと、臨也は堰を切ったように笑い出した。
「あはははっ!ホンットシズちゃんって・・・!」
「お前本当に今日、マジで変だぞ。大丈夫か?」
臨也の心配なんてしたくはないが、ここまで変だとさすがに気味悪さを超えて心配する。
一頻り笑った後、臨也はその場に立ち上がり、ズボンについた埃を手で軽く払った。
「心配しなくても、今日俺がこんなにおかしいのはシズちゃんの所為だから」
「はぁ?なんで俺の所為になるんだよ」
「だってさぁ、シズちゃんが天然なのは知ってたけど、ここまで鈍いとは思わなかったんだもん」
「もん言うな気色悪ぃ。それで俺のどこが鈍くて天然なんだよ」
「それじゃあ逆に聞くけど、シズちゃんさっき言ったこと本心?」
自分がさっき言ったこと、を記憶の中を探り思い出すと、静雄は平然と言い放った。
「当たり前だろ」
臨也は薄い笑顔を顔に貼り付けたまま、静雄を見ていた。
「だからそれのどこが・・・っ!?」
何も言わない臨也に更に言い募ろうとしていた静雄の顎を指で掬い上げ、臨也は言葉ごと口を塞いだ。
突然キスをされ、しかも相手が臨也ということもあり静雄の思考が真っ白になる。
臨也は静雄が酸欠になるギリギリのところで口を離し、静雄の耳許で何か囁くと、来たときと同じように軽快な足取りで屋上から出ていった。