デュラララ!!
□Liar
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「新羅!どうしよう!」
バンッと机を叩き、静雄は新羅に顔を近づけながら言った。
肩で息をしているところを見ると、走ってきたのだろう。
「まぁ、ちょっと落ち着きなよ。静雄」
新羅に宥められ、静雄は机から手を離すと大きく深呼吸をした。
静雄が落ち着きを取り戻してきた頃合いを見て話しかける。
「で、そんなに慌ててどうしたんだい」
「だから、俺、おかしくなっちゃたんだよ!」
静雄の文には修飾語が抜けていて、何が言いたいのかイマイチよく分からない。
ただ、本人の焦った表情を見ている限り、静雄にとっては大事なのだろう。
静雄と長いつきあいの新羅は瞬時にそう判断し、彼女に順を追って話すよう言った。
「えっと、俺が臨也のこと嫌いなのは知ってるよな?」
「そりゃあね」
これはつきあいの長さの有無ではなく、毎日飽きることなく喧嘩しまくっている二人を見れば、誰でも分かる。
「でも、最近ヘンなんだよ」
「何がヘンなのさ」
「だから、俺はあいつのこと嫌いなハズなのに、見てるとなんか、こう、ここら辺がドキドキしてきて顔が熱くなるんだよ」
そう言いながら、静雄は自分の左胸に手を当てた。
(やっぱりね・・・・)
新羅が微妙な表情をしていることに気づき、静雄はおずおずと声を掛けた。
「しんら、やっぱり俺、おかしいのかな・・・・」
不安そうに小さく呟く静雄に、新羅は慌てて笑みを浮かべ取り繕う。
「大丈夫。静雄はおかしくなってないよ」
「本当か!?」
先程の不安そうな顔が嘘のように静雄の表情がぱあっと明るくなる。そのころころ変わる表情に新羅は自然と口元が緩むのを感じる。
「静雄は臨也のこと嫌いなんでしょ?」
「うん」
「なら、そうなるのは当たり前でしょ」
新羅の言葉の意味がよく分かっていない静雄は疑問符を浮かべ、首を傾げる。
「静雄は、臨也のことが嫌いで嫌いでしょうがなくて、殴りたい衝動が抑えられないからそうなるんだよ」
他人が聞いたら無理矢理な理由だったが、当の静雄は納得したらしく「そうなのか!」と何度も頷いている。
こういう騙されやすい素直な性格が、静雄の良いところなのだが、ここまで騙されやすいと逆に心配になってくる。
まあ、静雄がそう簡単に誰かにやられるとは思わないけど。
「静雄さぁ、もうちょっと危機感持った方がいいよ。女の子なんだし」
「どういう意味だ?」
「だから、たとえ相手が僕であってもそう簡単に信用しちゃいけないってこと」
「だからなんでだ?」
更に疑問を重ねる静雄に、新羅は心配を通り越して少々呆れてくる。
「なんでって・・・」
「だって、新羅だからな。信用して当然だろっ」
さも当然だと言うように笑う静雄に、新羅は左胸が大きく脈打つのが分かった。
静雄はそのまま小走りで教室を出て行こうとしたが、ドアの前で立ち止まり振り返った。
「新羅!ありがとなっ!」
邪気のない笑顔を浮かべてそう言い残すと、静雄は教室から出て行った。
静雄が走り去っていった廊下を見ながら、新羅は溜息を吐く。
(臨也には悪いことしたなあ)
臨也の静雄に対する感情を知っていた新羅は、心の内で臨也に謝る。
謝ってはいるが、新羅は欠片も罪悪感や後ろめたさを感じてはいなかった。
臨也にも、静雄にも、そして嘘を平気で言った自分にも。
どうせ、こんな嘘なんてその場しのぎだ。
静雄が自分で臨也に対する感情に気づくのが先か。臨也が先に想いを告げるのが先か。どちらにせよ、いつかはその時が来るだろう。
そう、この嘘はただのエゴ。
全幅の信頼を新羅に寄せている静雄を、誰にも渡したくない、醜い独占欲。
いつか、本当にその時が来たら、祝福するよ。
だから今だけは、君を好きでいさせて。俺のモノだけでいて。
この嘘がバレるまででいいから。
報われなくても、静雄を好きになったことを後悔したことはないよ。