私小説

□甘い青春
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これは、暑い暑い、夏のお話。

ジリジリだの、ミーンミーンだの、蝉と呼ばれる虫が種類ごとに違った鳴き声を響かせる。

蝉の鳴き声は、求愛行動らしい。

そうなると、僕らは夏の間中ずっと、蝉のラブコールを聞いてることになるのか。

身体に纏わり付く、暑さと蝉の鳴き声。

不快で堪らない。

「あっつ・・・・・」

「煩い。さっさと手動かしてよ」

煩いって・・・、ちょっと呟いただけだよ?

因みに、読んでいる本から1ミリも目を離すことなく冷たく僕に言い放ったのは、僕の彼女。

一応恋人関係の僕らだが、手は数えるくらいにしか繋いだことがないし、ましてやキスなんて以ての外だ。

それとなく迫ってみたことはあるが、全て連敗。

うまく躱されるか、それか蹴るか殴るかの暴力行使で阻止されてきた。

今どき中学生でもないような、プラトニックな僕ら。

そりゃあ僕も高校生というお年頃だから、あれな方向に興味は持っているけれど。

「・・・・別に不満はないなぁ」

「そりゃあ、あんたの自業自得だからでしょ。ほら、さっさと課題終わらせてよ。こんなクソ暑いとこからさっさと帰りたいのよ」

そういう意味で言ったのではないのだが、ごもっとも。

本日提出の課題をすっかり忘れていた僕は、クラスメイトが全員帰った後も、クーラーのない教室で一人机に向かって奮闘している。

彼女はというと、僕が課題が残っているから先に帰って良いと言うと、「あっそ」と言って僕の後ろの席に腰掛けて本を読み始めた。

手も満足に繋いでくれない彼女だが、変なところで優しい。

だから、不満がないのかもしれない。
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