私小説
□火が昇る
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「なぁなぁ。何でお盆になると火を焚くん?」
子供の頃、あれは小学生に上がってさほど経っていない頃だと思う。
お盆の初日は、毎年祖父の家に行って火を焚く。
それが通例だった。
祖父は、一人娘だった私を猫可愛がりしてくれて、会うたびにお菓子やお小遣いを貰っていたから家に行くのは嫌ではなかった。
しかし火を焚き始めると必ず、祖父はいつも浮かべている優しい笑みを消し去り、痛みに耐えるような表情になっていた。
一人っ子で、周りが大人ばかりだった私は同年代の子供たちより聡く、子供ながらに祖父は誰かを悼んでいることが分かった。
それが、五年前に交通事故で死んだ、彼の最愛の妻だということも。
母も祖父と同様に、無言で燃え上がる火を見つめていた。
その無言に耐えられなくなったのか、それともぽんと頭に浮かんだ疑問を、そのまま口にしたのか。理由は忘れてしまったけど、聞いたことだけは鮮明に覚えている。
「これはね、迎え火って言うんだよ」
母は緩やかに燃える火を見つめたまま、答えた。
仕事上の関係で、母は方言を直したらしい。流暢な標準語だった。
「迎え火言うんかぁ。じゃあ、なんでお盆にやるん?」
「お盆になると、亡くなった人があの世から還ってきてくれるの。だから、貴方の家はここですよって目印代わりに火を焚くのよ」
「ふーん」
誰が還ってくるん?とは、聞かなかった。
「そっかぁ。一年に一回きりやし、早よう還ってきてもろおて、会いたいわ」
一人心地に呟いた言葉が、母と祖父の心にどう響いたかは、大人になった今でも分からない。ただ、
「・・・・・そうやね」
母がその時だけ、方言で答えたのだけは、よく覚えてる。