私小説

□雪の欠片
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冬の空は好きだ。

雪がはらはらと舞う雪空が、特に。

真っ黒な空と真っ白な雪のコントラストが幻想的で、雪が降ったときは何時間も外で空を眺めていた。

共感してくれる人は、あんま居なかったなぁ。

私の隣を厚着をした女性がすれ違う。寒さに身体を縮めて、少し猫背気味の状態で足早に私の隣を通り過ぎて行ったのが視界の端に映った。

その女性が私の事を不審者でも見るような眼で見たこともばっちし。

女性に限らず、家の敷地から一歩足を踏み出したときから会う人会う人にそういった眼で見られた。

そういえば、「貴方、虐待されてるの?こんな寒空の下をそんな格好で出歩いてるだなんて」ってわざわざ声を掛けてきた小金持ち風の老婦人も居たなぁ。

うん。ぶっちゃけ大きなお世話だよね。大人なら上手く事情を察してほっとけっつーの。

老婦人はいかにも心配した様子だったが、その瞳に好奇心の色が滲んでいるのを見逃すほど私はガキじゃない。

ドラマでよくあるお涙頂戴話でも聞きたかったんだろうか。なら昼ドラでも見とけ。あっちの方がドロッドロだから。

他人の不幸は蜜の味。そんな決まり文句に当てはまるヤツはこれまで数多く見てきたけど、誰も彼も吐き気がするほど汚らしく思えた。

とは言っても、私もそこは大人の対応。にっこり人当たりの良い優等生風の笑顔を浮かべて「違いますよ。趣味で着てるんです」って。

そしたら、老婦人はそれこそ宇宙人にでも会ったみたいに顔を歪めて、早歩きでどこかに行ってしまった。

ふふん、ざまぁみろ。

「さむっ・・・・・」

びゅううっと風が吹き、思わず肩を抱いて道路にしゃがみ込む。

自然と口が震えて歯が鳴る。割れた唇と手が追い打ちをかけるように痛む。

さすがに氷点下の中で夏服はキビシイよなぁ。風通し抜群だし。

けど、家に居るよりかマシだ。家に居たら、殴られる。

殴られるのは嫌い。痛いし痣になるし私を殴ってる時の母親の顔はぐちゃぐちゃに汚くて、それを見るのが一番嫌いだから。

それならこうやって放り出される方がずっといい。私になんか、構わなくていい。

あぁ、雪空が綺麗だ。

身を切るような寒さも、口に広がる仄かな血の味も、心を容赦無く嬲る他人の視線も全部、雪空を見ていたらどうでも良く感じる。

この黒と白に、溶けてしまえるならば・・・・・・。

ぴりりりりり!!

「うぉおっ!なんだぁっ!?」

じろりと遠巻きにこちらを見る人の視線が痛い。しょうがないじゃん、びっくりしたんだよ。

あー、携帯かぁ。いつものクセで持ってきちゃったんだ。

無視してもいっかな・・・・・。

ぴりりりりっ!

「はいはい出ますよぉ」

どうせ日渡あたりだろ。

スマホにしときゃ良かった。手がかじかんでて携帯が開きにくい。

それでも何とか携帯を開き、通話ボタンを押して耳に持っていく。

「もしもーし。伊垣アカネちゃんだよぅ。誰ですか?切ってもいいですか?」

『第一声からキモッ。名前言わんくても掛けてる時点で分かってるわ!』

「煩いなぁ。だったらこっちの気持ちも考えろっつーの。今電話する気分じゃないんですぅ。さっさと用件だけ言ってくださいぃ」

『あっからさまだな・・・・・』

送信者は予想ドンぴしゃ日渡直(というかこいつ以外にケー番を教えていない)。幼なじみでクラスメイトの所謂腐れ縁っていうヤツ。ツッコミ役はありがたいけど煩くて面倒なんだよね。
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