LUCKY DOG1

□しあわせの基準
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「なぁ。アンタ、ホント俺のこと好きなのか?」

一応俺の頭ん中じゃあ、今の台詞に至るまで色んな過程があったんだが、それが相手に伝わるワケがなく、ルキーノは唐突とも言える俺の言葉に眉をひそめた。

「・・・・・いきなり何だ?」

まぁフツーはそう思いますよねぇ。

「別にいきなりじゃねぇよ?ずーっと思ってたし」

そう。俺がルキーノに問うた事は、ずっと俺の頭の片隅に燻ってたものだ。

結果的に今この状況で聞くことになっただけで、俺としては突拍子もないことではなかった。

「・・・それは、遠回しに別れ話をしているのか?」

ルキーノの声のトーンが数段下がる。

俺は恐怖に身を竦めさせながらも、ぶんぶんと頭を振った。

「違ぇって!!何でそうなんだよ!早とちりすんな!」

「ふぅん・・・。じゃあ、何でそんな事聞くんだ」

ルキーノはまだ怪訝そうに眼を細めたままだったが、声のトーンは元に戻り、俺はほっと胸を撫で下ろす。

「それは・・・・・」

しかし何故かと聞かれると、どうしても俺は口をつぐまなければいけなくなる。

と言うより、ただ単に答えたくねぇだけなんだけど。

「お前の事だ。別に何となく〜なんて言って誤魔化そうとしてるんだろ?お前が誤魔化すなら、俺も答えない」

・・・・・なんたる勘の良さだ。

さすがは百獣の王。惚れ直しちゃうわ。

なんて心の中で小芝居を打ってみるが、それで状況が変わることはなかった。

別にルキーノに言えない理由ってワケじゃねぇんだけど、なんかこう、素面で言うのがハズイっつーか・・・・・・。

しかし対するルキーノも引くつもりはないらしく、宝石のような瞳が真っ直ぐに俺を映し出す。

つーか、質問してんの俺じゃなかったっけ。何で立場逆転してんだよ。

「どうした?言えないのか?上の口じゃ言えないことだったら、下の口に直接聞いてやろうか?」

すっと身体を近付け、肉食獣さながらの眼を向けるルキーノ。

ヤバい。眼がまじだ。

貞操なんてこの男のせいで何度も投げ出しているが、だからと言って易々と捨てられるほど、俺は恥を捨てきれてはいない。

しかもこの状態のルキーノに抱かれたら、経験上明日はベッドが恋人決定だ。

・・・・嫌だ。それは何としても避けたいっ。

「っ言う、言いますから!それ以上寄ってくんじゃねぇっ!」

必死に叫びながら、ルキーノの肩を押しやる。

ルキーノは若干残念がりながらも、俺と一定の距離を保った。

オイコラ、何ちょっとでも残念がってんだよこのエロライオン!

さぁどうする。

ルキーノがこの距離を保っているのでは、俺は俺で理由を話さなければならない。

言うのはハズイ。絶対後悔するほど後で恥かくだろうし、ルキーノのやつだって笑うに決まってる。

しかしルキーノが襲わないのなら、言うと言ったのは他ならない自分だ。

あーとかうーとか唸りながら視線を巡らせ、悪あがきをしていたが、とうとう観念して、重い口を開いた。

「・・・・俺、女じゃねぇもん・・・・・」

「はぁ?」

なんだその「何今更分かりきったこと言ってんだよ」つーような、呆れた眼は!

ルキーノの態度が勘に障り、一気に頭に血が上った。

「だってアンタ、無類の女好きじゃねぇか!店に行くたんびにキレイでセクシーなお姉さん侍らせてさ!」

あぁもう、為るようになれ!

「それに比べ男の俺は胸もぺったんこだし、身体は固ぇから触り心地も悪ぃし・・・・」

段々と頭が冷静さを取り戻していくのに比例して、俺の声も小さくなっていく。

ついにはルキーノの顔を見るのも恥ずかしくなって、俺はソファーに目線を落とした。

カッコ悪・・・・・・。勢いに任せて言ったら言ったらで、恥ずかしくて相手の顔すらマトモに見れなくなっちまうなんて・・・・・。

そんな俺を見ても、ルキーノは笑うどころか、優しい声音で俺に尋ねた。

「他には?」

「・・・・・それに」

「それに?」

「俺じゃあ、アンタを幸せにしてやれない」

男の俺はアンタの子供を生んで優しい家庭を築くこともできないし、マフィアのカポというルキーノ以上に危険な立場にいる俺はいつ死ぬか分からない。

ラッキードッグと言えど、死ぬ危険が0になるワケじゃないんだ。

今までだって、かなり危ない橋を何度も渡ってきた。持ち前の幸運で何とか乗り越えてきたが、これからもその幸運が俺を助けてくれる保障は無い。

ルキーノは俯く俺の髪から頬へ、流れるような動作で手を滑らせ、顎を掬い上げた。

そして、キスをした。何度も、何度も、俺を慰めるように優しく。

何回目か分からないキスをした後、ルキーノは微笑を称えて言った。

「お前は、俺が守る。お前が隣で生きて笑っていれば、それだけで俺は幸せだ」

「・・・・・!!///」

なんつー恥ずかしいことをさらっと言いのけちまうんだよ、この色男は!

しかし恥ずかしいほど真摯な台詞も、端正な顔つきのルキーノが言ったら効果抜群だ。

現に鏡で確認しなくても、今俺の顔は林檎さながらの熟れ具合だろう。

「しっかし俺の可愛いワンコは、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」

「・・・・アタシの格好いいダーリンは恥ずかしいこと言っちゃってくれるじゃないのぉ」

恥ずかしいやら嬉しいやら悔しいやらで、俺は真っ赤の顔のまま拗ねたようにそっぽを向く。

ルキーノはそっぽを向いた俺の顔を引き寄せ、先程とは違う、濃密なキスをした。

「ん、ふ・・・ぁ、あ」

頭の芯から徐々に浸透していく甘い痺れが、思考を麻痺させる。

「じゃ。ベッドに行きますか」

ん?え、ちょっ。

人が抵抗できないのをいいことに、ルキーノは俺の身体を軽々と持ち上げてベッドへと運んだ。

「いやいやいや!アンタも明日仕事だろ!」

「俺の最優先事項は、愛しい恋人に熱烈な愛情表現をしてあげることだ。――厭らしい声で啼いてくれよ?」

「アンタは良いかもしんねぇけど・・・・・!んンっ」

抗議の言葉もこの男の前では意味を成さないまま、唇ごと塞がれる。

「据え膳食わぬは男の恥ってな。美味しく頂かせてもらうぜ」

クソっ、結局こうなるのかよ!

最後の足掻きにと、ルキーノの服を引っ張って噛みつくようにキスをした。

それがさらにルキーノを煽らせる事になったと俺が知るのは・・・・・次の日、立ち上がれないくらいの腰痛で苦しむ時だった。
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