SS屯所
□いちごミルク
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放課後の静かな校舎の中を総司は走っていた。できるだけ、足音をたてないように。
「ん〜、今日はちょっと時間くっちゃったかな」
最近しつこくなってきていやだなぁ、と独り言をいいながら総司は急いである教室を目指した。遠くの方からは「ぅおらぁ、総司ィ!!どこいきやがったぁ!?」と怒鳴っている古文教師、土方の怒声が聞こえてくる。
が、土方は自分とは反対の方へいっているらしく、その声も段々と小さくなっていく。
それを確認した総司は「はいはい、土方さん、ご苦労様」とクスクス笑った。
それでも、同じ校舎内にいればいずれは遭遇する可能性もある。一応、撒くのに成功したとはいえセーフティリードではない。
行動は神速を尊ぶのが自分のためでもある。
総司は人気のなくなった廊下をスタスタと歩き、やがて“保健室”とかかれた部屋の前で止まった。
この部屋の主は養護教諭の山南であるが、学園の経理も担当している彼は四時を回ると事務室に移動するため、放課後は無人になっていることが多い。
それを利用して総司はさっきメールを打った。
保健室で待ってて
果たして、彼女はちゃんときているだろうか?
ノックをして引き戸になっているドアをカラカラと開けると、中にいた少女がこちらを振り返る。
「千鶴ちゃん」
「…あ、沖田先輩…」
「ごめんね、待たせて。ちょっと土方さん撒くのに時間かかっちゃってさ」
それでこんなに遅くなっちゃった、と、総司は笑った。
千鶴と呼ばれたその少女は総司がそういうのを聞いて少し眉を下げている。
「撒いてきたって…、先輩また抜けてきたんですか?土方先生の補習…」
心配そうな彼女とは対照的に、肝心の本人総司は大丈夫だよと、どこ吹く風だ。
「知りませんよ?もう、毎回、毎回…」
「だから〜、大丈夫だよ」
千鶴ちゃんはマジメだね?と、総司は目を細めて彼女を見つめる。
その表情にドキッとしたのか、千鶴はわずかに顔を赤くして合わせていた目をそらした。
「……で、今回は答案に何かいたんですか?」
千鶴が聞くと、総司はそれそれ!よく聞いてくれましたと、机の角に腰掛けた。
「前回の馬に乗ったノスタルジックな土方さんも傑作だったけどさ、今回は土方さんにドロ○ジョの服を着せてみたんだ!」
これがまたいい仕上がりでさぁ、左之さんや新八さんにもすっごくウケてたんだよ、なんて、総司は得意げに話している。
………ド○ンジョ?
何とはなしに、某有名アニメのキャラクターを思い浮かべた千鶴の頭の中に、 赤と黒のちょいエロ風な衣装に身につけた土方が現れて…。
「……プッ……!!」
思わず吹き出しそうになり、いけない、笑っちゃダメ!!と、慌てて口に手を当てた。
確かに…、原田先生と永倉先生に大ウケしたに違いないけど…。
それでも、土方先生は怒るわよね…と、千鶴は少し気の毒になった。
総司にとっては親しさの裏返しなのだろうけれど…。