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□ある日の特別な太陽の下で…
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今日は、特別な朝だ。
何せ、932年ぶりの金環日食が見られる日なのだ。この世紀の天体ショーを一緒に見ようと、絳攸の部屋には週末から恋人の秀麗も来ている。その彼女は朝早くから起きて太陽のかけ始めから観測しているらしく、ベランダからは時折おお〜とか、あ〜曇っちゃダメ!とか言っているのが聞こえてくる。
自分はといえば…その彼女から見えない場所で、先ほどから気を張り詰めさせていた。

「……よしっ、こういうことはウジウジとしていても始まらん…」

ふぅと、景気づけるように大きく息を吐いたあと、絳攸は小声で短く叫んだ。
なかなかやってこない自分に業を煮やしたのかベランダからは、こーゆーさまぁ〜?早く早く〜早く来ないと見逃しちゃいますよ〜?と呼ぶ、秀麗の声が聞こえてくる。

「わかってる、今行く」

ベランダの彼女にそう返してから、絳攸はもう一度、よしと呟いて外へと向かった。







「もう、遅いですよ?」

漸く姿を現した絳攸に秀麗はちょっと口を尖らせたけれど、またすぐに日食グラスを片手に空へと目を向けた。

朝だから、いつもだって昼間よりは日差しは弱いけれど、間もなく金環日食を迎えようとする今日はどこか薄暗くて。
毎朝チュンチュンと聞こえてくる鳥のさえずりもなく、静謐な空間がそこにあった。

「静かだな…」
「ええ…」
「暗い、というわけではないが明るくもない」
「そうですねぇ」
「こういうのを神秘的、というんだろうか?」
「…かも、しれません」

手に持つケータイのワンセグからの情報によれば、只今金環日食の五分前。食分率は89%。
不思議な空気の中で、絳攸さまも…はい、と渡された日食グラスを片手に天を仰いだ。
闇色の視界の中に白く輝く未完成の金環が見えた。
細長い三日月状から双方の先端がゆっくり、すぅーっともう片方の先端に近づいてゆく様は互いに伸ばしあう恋人たちの腕のようにも思える。
絳攸も秀麗も、ベランダの手すりに並んでお揃いで買ったウルトラマンセ○ンの日食グラス片手に言葉もなく細い輪に変化してゆく太陽を見つめていた。

「あ…」

徐々に徐々に、細い光が近づいていくのを見て秀麗が思わず感嘆の声を漏らす。
最初に欠け始めた太陽の右上の部分の闇色にどんどんどんどん光が染みていって…。

「あ……今、繋がった!うわぁ〜!」

秀麗の歓声とともに、絳攸の視界に金環が姿を現した。
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