SS屯所

□フライングゲット
1ページ/14ページ


今、僕は決めた。

「うん、それがいい。そうしよ〜っと。」

それはとっても、楽しいこと。
それは、とってもワクワクすること。

一君も平助も、左之さんもあの、土方さんも…。
みんなが狙ってる千鶴ちゃんを、今すぐに僕のものにしちゃおう。

え?それは抜け駆けじゃないか?って?

ま、そうとも言うケド…、できれば『先手必勝』って、言って欲しいね。


さあ、そうと決めたら、僕はどうしようかな?



何も知らない千鶴を見ながら、総司はにっこりと、極上の笑みを浮かべた。



●フライングゲット●



今年の夏は暑い。
連日のように、気象情報のお天気おねーさんが『明日も猛暑日になるでしょう。熱中症に充分お気をつけください。』って言ってるケド、本当にその通りだ。ただ、じっとしているだけなのに汗が吹き出してきて、うっとうしいったらない。

「あっついなぁ!もうっ…。」

道場の端に座っている総司は腹ただしげに吐き捨てた。

「だいたい、夏休みなのに何でこんなにガチンコで練習するのさ。」と、情け容赦のない練習スケジュールを組んだ顧問の土方を睨む。
そう。こんなに暑い夏休みでも、部活はある。
特に、強豪校の薄桜学園の剣道部の練習は休みなく連日だ。
エアコン、なんて気の利いたものなんかない真夏の道場はただでさえ暑苦しい。
なのに気温だけでなく、激しい稽古であがる部員たちの熱気で暑さは更に3割増。
オマケに、この全身を覆う面と防具だ。
高温多湿の不快感に、総司はまた、あっついなぁ〜と、つぶやいた。

全く、イライラする。この暑さ、何とかなんないのかなぁ。

総司は少しはマシになるかと、夏場の衣料としてはいささか分厚い道着の襟の合わせを、少し広げてみた。
やりすぎるとまたうるさいからな〜、と、土方の目を盗みつつ襟元を広げてはみたものの、あまり涼しさは得られない。

「あんま…変わんないなぁ〜。…なんか無駄に労力消費しちゃった…。」
いい加減うだりそうな暑さの中、思わずしかめてしまう目を道場の中心に向ければ、同級生の平助が顧問の永倉に打ち込まれているのが見えた。
平助も善戦して食いついているが、身長差からくるハンデは厳しく、パァンと面を打ち込まれ、まともに食らった平助がこっちに吹っ飛んできた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ