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□カノン
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絳攸は、その柔らかく、愛しきものを見つめていた。
それは寝台に横たわり、目を閉じてすうすうと安らかな眠りの中にいる。
その肌は、白く…いや、少し桃色がかっていて、何の汚れもないように滑らかで…。
絳攸はふと触れたくなって、手を伸ばしかけるが、触れてもいいだろうか?どうしようか?と迷って、手を止めた。
少し考えて、やはり…と、止めかけた手を伸ばした。
指に、温かくて柔らかいものが触れた。手の平の上下を変えて、指の背でふっくらとした頬をそっと、そっと撫でる。
自分の息遣いで起こさないように息を詰めて、二度と、三度と、その肌に這わせて感触を味わう。
全く、何度同じことをしても少しも飽きることがない。


そのうちに、じっくりと頬を撫でて満足した絳攸は、立ち上がり、今度は今まで腰掛けていたその寝台の上に静かに寝そべった。
それから、片肘をついて、その上に頭を乗せて添い寝の体勢になった。
視線をわずかに落とすと、ちょうどそのすぐ目の前にすやすやと眠るその寝顔がある。
さっき見ていたときよりも近くなって、顔をよせれば、ふわっと香る甘い匂いと、体温を感じることができた。
絳攸は、小さな額の上にある髪をちょっと撫でて、それから、その生え際にそっと唇を寄せた。
ふんわりしていて、それでいて頼りないような、くすぐったいような産毛の肌触りが心地よくて、軽くほわっほわっと、幾度か自分の顔を動かした。
ひとしきりそうしていた後、生え際から顔を上げると、ぱっちりとした黒い瞳と目が合った。
何も言わず、ただ絳攸だけを見つめている、まだこの先の喜びも悲しみも運命も知らない、いたいけで、まっすぐな瞳。そのつぶらな瞳がじっと、絳攸を見ている。

「…ぁ!悪い、起こしたのか…?」

まだ眠っているとばかり思っていたので、絳攸は驚いた。その驚いている自分の姿が、くりくりした澄んだ瞳に映っている。

「…すまんな、せっかく眠っていたのを起こしてしまって。」
「…………。」

返事はないけれど、それでもまだ、絳攸から目は離さない。しかも、心なしか微笑んでいるように見える………のは、自分の思い込み…だろうか?

「おい、眠ってていいんだぞ?」
「………………。」

返ってきたのはやはり、沈黙だけだったが、絳攸はまた、優しい声でそう、話しかけた。
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