SS屯所
□いちごミルク
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「で、それはどうしたの?」
総司に聞かれて、千鶴はハッとした。
「えっ!?…っと、あ、コレですよね?」
そう言って、手に下げていたビニール袋を持ち上げた。
「あの、さっきここに来る途中に校長先生にお会いして…」
「近藤さん?」
「はい、それで、『雪村くん、いつもご苦労様』って頂いちゃったんですけど…」
本当は雪村くん、の次に『総司のお守りを』が入っていたのは内緒にして、見せたビニール袋の中身は…。
「イチゴじゃない、コレ」
「はい。美味しそうですよね」
色艶もよく、粒も大きくてなかなか質の良さそうなものだ。しかもそれが2パックある。
「でも一人じゃ食べ切れませんし、かと言って部活の皆さんで分けるにはちょっと数が足りなさそうで…」
どうしましょう…と、千鶴は少し困ったように微笑んだ。
が。
「何でそうなるかな〜」
と、総司は言う。
「どうもこうも、一緒に食べようよ。大体、部活で食べようとかは出てきて、何で僕と二人で食べるとは思いつかないのかなぁ、千鶴ちゃんは…」
寂しいなぁ…と、恨みがましい目で見ると、彼女は「そ、そうですね、すみません」と慌てて頷いた。
「はい、じゃキマリね。」
総司はにっこりと笑い、「貸して」と千鶴から袋を取り上げる。
「え!あの、ここで食べちゃうんですか?」
それは山南先生が怒るんじゃ…と心配する千鶴に
「違うよ。帰って二人で食べようって言ってるの!」
と、総司は言った。
「そうですよね?…あ、でも部活は…」
「そんなのサボるに決まってるでしょ?」
「え!?でも、そんなことしたら斎藤先輩に怒られちゃいます…」
「…………。」
彼女はマジメだ。そこがいいところでもあるが…。
総司は小さくため息をついた。
「それなら大丈夫。」
「何でですか?」
「今日は委員会の日で風紀委員長の一くんは遅くなるから」
それに一くんは君には絶対に怒んないよ、と付け足して「行くよ?」と千鶴の腕をつかみ、昇降口へと向かう。
「で?どっちの家で食べる?」
聞かれて千鶴は答えるのに窮した。
僕んちにする?とまた聞いてくる総司にドキリとする。
「……えと…」
答えに詰まるのと同時に、総司つれられて歩いていた千鶴の足も止まった。
キュッという靴の音が廊下に響く。
総司の家…、でもいいけれど。ここ最近で、自分が彼の家に行った時にどうなったのかを考えると…必ずなし崩し的なカンジなり…後は……/////…で…。
いや、だからって嫌じゃないんだけど、先輩の家でって言って、そういうのを期待してる…とか思われたくないし…。
「……………。」
顔を上げると、返事を待っている総司が「ん?どっちがいい?」と笑っている。
なんだか、先輩に全部見透かされてるような…。
千鶴は唇をキュッと結んだ。そしてーー
「じゃあ、キッチンも使いますし、私の家で…」
そう、答えた。
「………ふうん。OK、じゃあ千鶴ちゃんちね」
総司がそう答えるまでにビミョーな間があったのが気になったけれど、「はい」と、千鶴は総司に続いて歩き出した。