SS屯所

□いちごミルク
4ページ/9ページ


「へぇ、千鶴ちゃんは牛乳とお砂糖派なんだ。…絶対に練乳のほうがおいしいと思うけど」

総司はそう言いながら、プシッとフォークをいちごに刺して口の中に放り込んだ。

「ええ。うちはっていうか…私は、なんですけど。あ、でもこういうのって、おうちによってそれぞれ食べ方が違ってて面白いですよね?私は…」

こうして…と、千鶴は残り少なくなったいちごを一つ、フォークの背でつぶして見せた。

「こうやって、最後に残ったのをつぶして、いちごミルク風にするのがすきなので牛乳とお砂糖派なんです」

カシャカシャと軽くつぶしたいちごと牛乳をかき混ぜると、それを一口飲んで。
それから、唇に付いている牛乳を舌先でちょっと舐めた。

「……………。」

が、総司にその様子をじっと見ていたことに気がつき、千鶴は恥ずかしくなり慌てて下を向く。

カシャン、と。

フォークとガラスの器が触れるのが聞こえて、気がつけばまた、器のミッキーと目が合った。

『ほらー。今このお部屋にはちづると沖田センパイの2人だけなんだよー?』
『それに、沖田センパイ。ちづるのことじ〜って見てるし』

彼らにそう言われているようで、千鶴は益々恥ずかしくなってしまって顔を上げられない。

不意に、総司が「ねぇ」と呼んだ。

「はいぃぃ!?」

返事をした拍子に顔を上げると、総司は千鶴の動揺を見透かしたような表情をしている。
その総司が、「ソレ」と、千鶴の器をフォークで示した。

「そんなにおいしいなら、千鶴ちゃんの、一口ちょうだい?」

そう言って微笑む彼の目の緑色はさっき、一瞬だけざわついたように濃くなった気がした。けれど、今はいつもの千鶴が好きな落ち着いた緑色で…。
ちょっとだけホッとした彼女は「いいですよ?」と、まだつぶしていないいちごを一粒フォークで刺して、総司の器に入れようとした。

そしたら。

「違うよ、こっちこっち」

言われるままに彼に視線を移したら、総司は口をあーんと開けて、持っているフォークで下唇をトントンとしている。

「……えっと…」

これは…その、あーんんして?ってことよね…?

総司の要求に気づきはしたものの、千鶴の手は躊躇してその動きを止めて固まった。そんな彼女を愉しそうに眺め

は・や・く

と、総司は口の動きだけで催促する。

「…………。」

ただ、いちごを口に入れればいいんだから…。

震えそうになる手をどうにか動かして、千鶴はいちごを彼の口の中に入れた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ