SS屯所

□衣替え
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あの隊服は僕のだよね?どうして抱えてたの?と、尋ねる沖田に、千鶴はまともな返事すらできない。
今、自分の身に起こっていることや、自分がしていたことを見られてしまった恥ずかしさに耐えきれずに、たまらず俯いた。
しかし。
沖田を直視できずに目を逸らしたはずなのに、その目には今度は袷を着ていた頃よりも、もっと大きく広げられた胸元が映った。
「…………っ!!」
今にも、桜色の乳頭が見えてしまいそうなくらいにギリギリまで広げられた艶めかしさに、千鶴はパッと顔を横に向けた。
それを、彼が見ていない訳もなく…。
「あれ?何でそっち向いちゃうのかなぁ?それに…、何か顔もさっきより赤くなってるし?」
クスクスと笑いながら、沖田はわざと身体を千鶴に近づける。
「お、お、きた…さん!」
思わず震える声で叫んでしまった千鶴に、彼は尚も詰め寄って
「なに?もしかして、コレ?」
と、自分の露わになっている胸板を指差した。
違います、とも言えずに、千鶴はただ、フルフル首を振る。
「やだなぁ、いつもと同じなのに…。あぁ、もしかして、千鶴ちゃん、意識しちゃったんだ?」
ますます近づけられる沖田の胸元をとても見ていられず、千鶴はギュッと目をつむった。

いつもと同じ、なんて…ウソ。暦が変わって、単衣になって、ついこの間よりもずっと大きくはだけさせているくせに…。

心の中では叫べても、実際に口に出すことなど、千鶴にはできない。
「どうして意識しちゃうかなぁ?左之さんなんて裸同然だし、平助だって、新八さんだって、襟の合わせなんて広げてるじゃない?まぁ、一くんは真夏でも黒い着物できっちりだけどね。」
自分で言った言葉にアハハ、と笑いながら、横を向いた千鶴の頬に指を添えて、沖田はこちらを向かせる。が、千鶴の目は閉じられたまま…。
「ね、千鶴ちゃん。左之さんたちは平気なのに、どうして僕だけダメなの?」
「……//////。」

理由はわかっているけれど…それは、言えない。
そして、それを否定することもできない。
千鶴の背中にあるのはもう壁ばかりで、もうこの部屋のどこにも逃げ場はなくなっていた。
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