SS屯所

□2人のセカイ
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その震えを抑えるように、肩に置いていた手を前に滑らせて千鶴を抱きしめた。
久しぶりのせいなのか千鶴の血は殊の外甘くて、僕はすごくきつく吸い上げていたから、少しでも彼女の痛みが和らぐように、強く強く抱きしめた。
その中で、千鶴は身を固くしている。
千鶴のおかげで衝動が少し収まり始めると、現金なことに頭の中も明瞭になる。
ふと気がつくと、千鶴が抱きしめている自分の手を握っているのがわかった。

今は僕にだけ、だけど…。

明瞭になりかけた頭は、僕に余計なことを気づかせた。
新選組の中には、自分の他にも羅刹はいた。山南さんを皮きりに平助、土方さん、そして…一くん。彼女の周りだけでもこれだけ。
千鶴は優しいから、例えばその中の誰かが目の前で吸血衝動で苦しんでいたらきっと…。

『自分も何か役に立ちたい』ってのが口癖みたいな子だったから、自分以外の誰かに血を分けていたとしても不思議じゃないな…。

その時にもやっぱり、こんな風に堪らなくなるような仕草をしていたのだろうか?
そう思ったら総司は胸の奥がチリチリとするような感じになり、千鶴が思わず「…っつ!」と声を漏らす程に、きつく首筋を吸い上げた。今更、な…つまんない想像に嫉妬をしてる、つまんない僕…。
だけど、その小さな悲鳴にハッとして、僕は千鶴から唇を離した。

「……ごめん…。」

そっと、赤く跡がついた彼女の首筋を指で撫でる。悪い、とは思っているのに、その赤い跡がどこか嬉しい。好きな子を傷付けたくないといいながらこんな充血の跡は嬉しいというこの、矛盾。君にわかるかな?

「いえ…。すみません総司さん。私、思わず…。」
「ううん、千鶴は悪くないよ。僕のほうこそ‥。」

そう言って、僕はつまんないやきもちを隠すように、千鶴を背後から抱きしめた。
ごまかしたつもりだったのに、そういう気持ちって漏れ出てしまうのかな?
恋愛方面にはほんっとに鈍い千鶴が、こういう時は鋭くなる。

「…総司さん?私、総司さんだけです。」
「…………。」
「血を、差し上げたのは総司さんだけです。」
「…………僕、だけ?」
「はい。他の方は知らん顔できても、総司さんが苦悶していらっしゃるのを見ていることはできなくて…。」

それに、私…鬼…ですから……その、人間みたいに傷の心配しなくてもいいし…と、千鶴は弱々しく笑った。
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