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□『greyhound』
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夜中に辿り着くのは、君の所。



空から絶え間なく降り続ける雨は、容赦なく着ている服を重たくして、髪は頬に張り付いた……



『pianissimo』




うっかりソファーでうたた寝をしてしまっていた千鶴の耳へ、訪問者を告げるインターフォンの呼び鈴が入って来た。
ボヤける視線を頼らずに、手探りで携帯を探して至近距離で確認した今の時刻に眉をひそめた。



日付が変わって1時間程過ぎた今現在。
普通こんな時間に人の家の呼び鈴を鳴らすのは非常識だろう。しかし、その非常識を笑いながら平然とやってのける恋人がいるので、まさか…という考えが浮かんだ。




「……総司さんには、常識ってものがないだろうか‥」



そう小さく毒付きながら横になっていたソファーから起き上がり、ふらふらする足元を正しながら玄関へと歩を進めた。

鼻には雨の匂い、嫌いじゃない。
扉に付いていた外を伺う為の覗き穴に片目を添えるが、変わらぬ景色。
恐る恐る開けてみたけれど、扉を最後まで開た時、初めて人の気配を感じる事が出来た……



「総司さん?」



自分の目を疑った。
外は夜闇が灰色に見える位の雨脚。
足元には大きな水溜まり。声を掛けるタイミングを逃してしまって、ただ見ているだけしか出来ない…



「……誰かの所に、行こうと思ったら…一番に君の顔が浮かんだんだよね」



「傘、持ってなかったんですか…?」



「考える前に歩いてた‥」



「連絡してくれれは、迎えに行ったのに…」



「携帯、置いてきちゃった」



一番に浮かんだのが自分…という事にとても喜びを感じたけれど、目の前の現実に引き戻された。


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