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□『brave bull』
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一人の人を愛せる様になって、
一人の人のことを考えられるようになって、一人の人のことで心を痛める痛さを知った。



「手、…どけて‥くれませんか?」



「嫌だな。どけたら君、帰るでしょ」



「か、帰りたいんです。…なのに沖田さんが、いつまで経ってもそのままだから‥」



壁に突かれた自分とは違う力を携えた腕。どこまでも射抜かれる翡翠の瞳。
他の人よりも彼のことを知っていると思っていたけれど、男女の差を見せ付けられる度に自分の甘さを痛感させられる…


突拍子のないことや悪戯を繰り返しても、どこか大人びていると勝手に思っていた。でも時々どうしようもない我が侭を言ったり…今もそう。


帰る、帰さないの攻防戦。
どちらかが折れるまで戦いは果てしなく続くのだ。どちらかが折れると言っても全戦全敗しているのは私の方…




「沖田‥さん、」



「今夜も帰したくないんだよね。」



「ただの我が侭じゃないですか、それ。」


「僕が我が侭言ったらいけない?」



その言葉が終わったと同時にキスされる。短いキス。本当に短い。


離れて視界は元通りになったが、表情はさっきと全く変わらず…



「我が侭言う僕は嫌い…?」


「…な、何を言うんですか‥」


「千鶴、答えて。」


「…答えてと、言われても‥」



「早く、」



「……す、好きになった相手を…、何の理由もなしに嫌いになるなんて、出来っこないですっ!!」



今度は先刻とは比べ物にならない口付け。次第に苦しくなっては意識は遠くなるばかり…。好きとは言ってないけれど、今の状況で言ったことを少し後悔した。



「おきた…さん、、」



「それ以上喋ると、舌噛むよ…」




遠い所で玄関の扉の鍵が閉まった音がした。気持ちをストレートに伝えるのはとてもとても難しい…


ただ好きで好きで好きで好きで、仕方がないだけ。



あぁ、心痛し。



the end.
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