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□『a voix forte』
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白くて細い、ぎゅっと…握り締めたら折れてしまいそうな。そんな華奢な指が紡ぐこのメロディ。俺が歌詞を付けて歌えば、花が咲く様にお前は笑った。
「お前は、本当に嬉しそうに笑うのだな…」
「はい。真斗君と一緒に歌うのはとても楽しいですから…あ、そこはもう少しフォルテにすると印象に残るかもです」
体を乗り出していそいそと書きかけの楽譜に記号や字を書き込んで行き、また弾き直すしては書き込んで、そんな作業の繰り返し。
「あー、と…ここは、ブレスを入れないと真斗君苦しいかなぁ。でも…」
「春歌、」
「ここで切っちゃうと歌詞が途切れちゃうし…どうしたら」
「ハル、」
正直言うと、情けない話だけれど楽譜に…嫉妬した。名前で呼ばれたことでハッとして顔を上げたのを逃さず、そのままキス。触れるだけじゃない、呼吸を奪う位の口付け。苦しくて逃げるのが分かっているから顎を掴んで、こちらにぐっと引き寄せた。
「ん、んぅ…っ、」
「…ハル、」
「‥き、急にされると、息が‥出来ません」
「そうか、ならする時は前もって言ってからするとしよう。」
「え…、ぁ、っと…」
立ち上がって後退り。一歩詰めた分だけ一歩後退る。顔を真っ赤にさせながらわたわたと慌てふためく彼女が愛しくて仕方がない。
「それ以上は下がれないぞ。」
「あっ…っ、真斗くん、」
「俺から逃げた罰だ、」
顎を傾けて容赦なく唇を塞いだ。
fine.