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□『etoile princess』
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ドアを開ければ部屋は真っ暗。
仕事が早く終わったから、と連絡をしたのに愛しい彼女は電話に出ず、メールの返信もなし。彼女にも仕事があるから疲れて寝ているんだろうかとか、色々と考えてはみたけれどもやもやした不安は消えず。


春歌、そう名前を呼びながら歩を進めれば真っ暗なリビングのフローリングにぺたり…力なく座って項垂れる愛しい彼女。
電気を付けて近付けばどこか上の空…



「春歌、‥春歌。」


「あ、…トキヤ、くん。えっと…」


「あぁ、こんなに泣き腫らして、何かあったんですか」


「私、わたし……」


話す間にもポロポロと涙を溢す春歌をトキヤはギュッと抱き締めて、背中には回した掌で優しく撫でて撫でて。



「最近、体調が良くなくて…病院に行ったら」


「結果は?」


「…、赤ちゃん、いるって…。妊娠してるって‥でも、トキヤくん、アイドルだし…こんなことになってしまって、私どうしたらいいか」


「なら、結婚しましょう。」


涙がぴたり。日溜まり色の目を見開いて驚く春歌にはトキヤはさも当然というように、当たり前でしょう…そう囁いた。


「何の為に一緒に住んでいると思っているんですか?」


「わたし、トキヤくんと…別れなきゃって、そう考えてたら涙が止まらなくなってしまって、」


「どうしてその様な考えになるんです」


「だって…私は作曲家で、トキヤくんは」


「その前に、恋人でしょう。何か問題でもあるんですか?」


「…ない、です。」


「そう、それはよかった。」



不自然に熱を持った春歌の頬にトキヤは自分の頬をぴたりと合わせてギュッっと抱き締めた。


「さぁ先ずは徹夜禁止令を出さないとですね、あとは…」


「え、何でですか?」


「正直仕事も減らしてもらいたいんですが、流石にそこまですると…あと一人で出歩くのも最小限にして頂きます」


「え、ぇええぇっ!!」


「当たり前でしょう。一人の身体ではないのですから…」


「大袈裟ですよ‥」


「大袈裟位があなたには丁度いい。」


ギュッっと、慈しみを込めて。力の加減をして抱き締めて…



「春歌のこと、幸せにします。」


「私はもう十分に幸せですよ」


「なら、一緒に幸せになりましょう」


「っ…、はいっ!!」



fine.
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