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□『deep throat』
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「と、トキヤくーん‥」
「、なんですか…?」
玄関に迎えに行ったけれど、おかえりなさい…そう言い終る前に腕を引かれてギュッと抱き締められてしまった。名前を呼んでも返事はなし。鼻孔を擽ったのはトキヤの香りと、それに隠れるアルコール…
「珍しいですね、トキヤくんが酔って帰ってくるなんて…」
「プロデューサーがあまりにも、君の曲を褒めるので…少し自棄(やけ)になってしまって。大人気ないですね‥本当に」
「も、もしかして、妬きもち‥ですか?」
「…他に何があるんです」
「……あ、いえ、」
「顔、にやけてますよ‥」
春歌の両肩がびくりと震えた。抱き締められていて顔は見えない筈なのに、表情を当てられてしまって心底驚いてしまったから。体を引こうにもトキヤの力には抗うことは出来ない…
「好きなら、嫉妬するに決まっています…当たり前の事を聞かないでください」
「…ぁ、と‥、すみません//」
「どうしてそこで照れたりするんですか‥」
呆れ混じりの溜め息を1っ。熱い抱擁から解放されて春歌はトキヤの顔を見たけれど、眉は下がり、少し困った様な…少し切なそうな表情。どくり、心臓が変な音を立てた気がした…
指先は下唇。少し力を入れられれば開いて、声を出す間もなく塞がれる。舌ごと吸われてリップノイズが綺麗に弾けて消えて行った。暫し繰り返し。
「そんな蕩けた表情(かお)、しないでください…」
「だって、こんなキス‥」
「欲情してしまいますよ…?」
今度は獲物を見付けた様な、鋭さを含んだ視線。この瞳に出会うと大概結末は決まっているし、何より間違いなく食べられてしまう。
「つ、疲れてますよね?それに酔ってますし…だから、今夜は‥」
「こんなの酔った内に入りません。それに言ってませんでしたっけ…」
「…な、何を、です?」
「私、ザルですから」
「!!」
「だから、さぁ行きましょう」
ずるずる…
立ち尽くす春歌を半ば引き摺ってベッドルームへ。扉が閉まる音が、静かな廊下に大きく響いた。
fine.