3

□『sunny grace』
1ページ/2ページ








ふと腕時計を見れば思っていたよりも遥かに時間が経過していたことに春歌は驚く。熱めに作ってもらったドリンクは疾うに熱を失い、随分と冷たくなってしまった。ふぅと小さな溜め息を吐き出し、マグを呷って傍らの鞄から財布を取り出そうとした…が。



「いつも感心しているけれど、今日は随分と根詰めていたんだね…」


「あ、え…」


「でもあまり頑張り過ぎると疲れ切ってしまうよ?」



ことり、目の前には湯気の揺蕩うマグが1っ。春歌はマグと目の前で笑う彼を交互に見やり、はっとして財布を開いたが大きな手に遮られてしまった。




「いらないよ、好きでしたことだから。頑張ってたレディに差し入れ元い、ご褒美だよ。だから気にしないで、ね?」


「あの、でもいつも長居してしまってますし…申し訳ないです」


「居心地がいいから長居してるんだよね?それはパートナー冥利に尽きるね。ありがと、。」


「そ、そんな、私の方こそありがとうございます…」


「隣、いいかな」



にっこり、広い広い海がどこまでも続いている様な綺麗で優しい瞳に話掛けられてしまって春歌は考える事なく、はい…と首を立てに振ってしまう。あぁまるで魔法に掛けられてしまったみたい…



「お仕事、いいんですか?」


「いや、丁度休憩時間。それ、いつも頼むやつ作って来たんだけど、違うドリンクが良かったかな‥」


「いえ、ホワイトモカが大好きなので。それに、買いに行こうと思っていたのと同じでしたから…」


「なら次に君が来た時、いつものって言ってくれれば作ってあげるよ。」


「ふふ、常連さんみたいで恰好いいです//」


「だから、またおいで。七海春歌ちゃん」


はい、当たり前の様にそう返事をしてしまったけれど、ふと名乗った覚えがないことに春歌は気付いた。首を傾げて思い起こしていたけれど、トントン…と目の前の五線譜を叩く音に意識を戻される。
あぁ提出した時に記入した氏名欄…




「名前、前から聞こうと思っていたんだけど偶然見えたから」


「あ、あのっ、あなたのお名前っ!!」


「神宮寺レン、」


「神宮寺‥レンさん、レンさん…」




大事な言葉を飲み込む様に、春歌はその名前を忘れないように何度も何度も反芻した。


fine.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ